3つの原理を押さえよ
勘所を外さずに受験勉強を行うためには、原理原則を踏まえる必要があることは自明です。
受験には「3つの原理」があり、すべての判断はこの原理に基いていなければなりません。
第1原理:時間が限られている
第2原理:必要十分な知識を暗記しなければならない
第3原理:総合得点の高い順に、定員数だけ合格する
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
第1原理:時間が限られている
”もっともプリミティブで重要”な原理です。
時間に限りがあるからこそ、学習効率の高い学習方法を選択し、戦略的に勉強する必要性が生まれます。
常に「時間が限られている」という事実を念頭に置いて学習・判断していかなければなりません。
「勉強可能時間」が少ないことを意識せよ
どれくらいの時間が残されているのか、掘り下げてみましょう。
まず、受験生にとって、残された時間は1年間あるように思われがちですが、センター試験(共通テスト)が1月中旬にあることから、9ヶ月半しかありません。国公立2次試験前期までも10ヶ月半しかありません。
記憶の保持に2ヶ月かけることになる
受験はいかに多く新しい知識を習得したの勝負です(第3原理)が、新しく学んだことを忘れないよう復習する時間も必要です。
模試のタイミングで、過去に一度できたことのある問題も復習する必要があります。例えば、高3では平均して記述模試4~5回、マーク模試4~5回、合計10回弱の模試があります。
模試は平均7日前から復習しなければなりません。結局、約50-60日は過去にできた問題を復習する時間が必要になります。
こうして、受験生はさらに2ヶ月分を復習に使うことになります。つまり、問題集を通して新たな知識を増やす時間に使えるのは、7ヶ月半~8ヶ月半しかないのです。このマクロな時間感覚は持っておいてください。
なお、松濤舎では自分の時間を視覚化し管理するために手帳を使った自己管理指導を行っています。
勉強すべき教科・科目を減らす
時間に制限があり(第1原理)、合否は総合得点で決まる(第3原理)ことから、教科ごとの時間配分を最適に行わなければなりません。
まず、時間という限られたリソースを配分するので、科目は少ないに越したことはありません。私立大学に進学できるのであれば早めに私立専願にし、科目を絞って勉強することを推奨します。
さらに、勉強する科目を減らすには、文理選択、理科選択、社会選択はできるだけ早い方がいいです。受験科目として不要な科目に時間をかける時間があるのであれば、英単語を1つでも多く覚えたほうが生産的です。文理選択、理科選択、社会選択は早めにしましょう。
(地元の)国公立至上主義から脱却せよ
現役生は、私立専願を嫌う傾向にあります。特に地方の高校には「私立進学は逃げだ。地元の国公立大学に行くのがよいことだ」という空気が蔓延していますが、その意見は完全に間違えているので無視してください。
例えば、大学4年間での様々な機会があること、就職活動での優位性まで含めて考えると、地方国公立より都内私立大学の方が有利であるケースが非常に多いです。
浪人時に「もうこれ以上は浪人ができない」ということで私立大学専願になるケースや、受験直前になって思ったような成績になっていないことに気づいて私立専願にするケースは非常に多いですが、はじめから私立専願にしていたほうが現役合格した可能性は十分にあります。
国公立受験をすることは、ハイリスク・ローリターンになりえることを踏まえ、本当に国公立受験をすべきかはよく考えましょう。
とはいえ、(私もそうでしたが)私立大学受験は家計的に厳しいという人も多いはずです。そういう人は早めに受験対策を開始し、5教科7科目受験ができるようにしておく以外に対策はありません。
時間配分を最適化せよ
総合点を最大化するためには、時間配分を最適化しなければなりません。
やることはシンプルで、合格最低点に届かせるために必要な問題集を徹底してやるだけなのですが、問題集ラインナップ自体を間違えないようにしてください。
問題集選びは下記記事を参考にしていただけたらと思います。
「新しい知識が増えていない時間」が最も無駄
時間に制限があり(第1原理)、受験は知識の暗記が必須であることから(第2原理)、新しい知識が増えていない時間は無駄なので、出来るだけ減らさなければなりません。
すでに解ける問題に取り組んでいる時間は、新しい知識を得ていないので無駄です。
例えば「忘れないように、解ける問題も解けるうちに復習する」のは間違っていて、実際は「間隔を長く置いて復習するほど、長期的に記憶しておける」ということが、科学的に知られています。
一度解けた問題はできるだけ放置し、すでに解ける問題に取り組む時間はできるだけ少なくするようにしてください。模試の前に復習するだけでよいです。
つまり、受験生は平均1−2ヶ月、高1,2生は2−3ヶ月、放置するようにしてください。そして、未着手の問題、一度も解けたことのない問題を解くことに最大限時間を割くようにしてください。
特に浪人生は「今年合格しないといけない」というプレッシャーの中で勉強するので、どうしても安心したい気持ちが働き、解ける問題を繰り返しがちです。
一般的に浪人生の成績の伸びが悪いのは、できる問題を繰り返しているからです。
作業の時間を減らす
問題集の解答をノートに写す時間も無駄です。
ただの作業になってしまい、肝心の「記憶として定着させようと頭を働かせること」をせず、その時間は新しい知識が増えていません。
「一度も解けたことのない問題」を「解説を読んで理解し、記憶として定着させること」に時間を使うようにしてください。
「手で書いて覚える」という誤った言説・迷信は信じないようにしましょう。
後述しますが、単に解説を読むだけでは定着しないので、必ず「解答を隠して本当に自分で解けるほど定着させることができたか確認」することもセットで行うようにしてください。
予備校は効率が悪い
90分授業で3−4問の解説をする予備校の授業は、超非効率です。90分の勉強で3−4問分の知識量しか増えないことなど、問題演習中心の勉強をしていればありえません。
それだけ非効率的な時間の使い方をするので、当然ながら1年間で解くべき問題に網羅的に触れることは不可能で、体系的な知識を得ることなく1年を終えてしまいます。
予備校のテキストには過去問の問題だけが載っており、解答は配られません。
予習して授業に出ることを薦められますが、解答のない問題を自力で解くという、極めて非効率的な学習をすることになります。
大手予備校に通いながら難関大学に合格している人の多くは、自習室利用をメインとしており、授業に出るとしても必要最低限のものだけ(センター直前期の講義など。これも不要ですが)を選んでいるのが実情です。
自分で問題集を使って勉強していれば、1問10~15分ほどで終わらせることができ、90問題なら6~9問解けます。
予備校に通っても、結局帰ってから復習する時間が必要なことも含めると、問題集を使った勉強は予備校に通って講義を聴くスタイルと比較して数倍効率的なのです。
当然、勉強と関係のない時間は減らす
これは当たり前ですが、勉強と関係のない時間は減らしましょう。特に高校生にとっての大敵はスマホです。
動画を見てしまった、ネットのザッピングを止められなかった、という程度の低い悩みは、スマホの電源を切ることで解決します。
これくらいの自己制御ができない人が、得意科目ばかりに時間をかけないといったより高度な自己制御はできません。難関大学への合格も厳しいですので早々に諦めたほうがいいでしょう。
気分転換をしたいのであれば、体を動かすなど、粘着性が低く身体にも良いことを行うようにしましょう。
第2原理:必要十分な知識を暗記しなければならない
「知識の暗記」にもっと目を向けよ
計算力、応用力といった漠然とした言葉が受験ではよく登場しますが、もっと「知識の暗記」に目を向ける必要があります。
知識として意識的に暗記していかないと、次のような非効率的な学習につながります。
- ただ英語を聞き流すだけで、”リスニング力”が上がると思う。
- 音楽を聴きながらでも計算練習をすれば、”計算力”が上がると思う。
- 生物の反転問題をたくさん問けば、”応用力”が高まると思う。
上記のような無意識の勉強をしていても実際には何も身についていないか、非常に非効率です。
志望校の合格最低点以上のレベルの問題はやらなくてよい
定着させるべき知識量には上限があります。
それは、志望校の合格最低点を超えるのに必要な問題が解ける知識量です。「合格最低点を超えるのに必要な問題」というところが肝です。満点を取る必要はありませんので。
無駄に難しい問題を解いている人が多いですが、それは完全に間違えています。入試本番で捨て問に手を出すリスクが高まって、百害あって一利なしです。
それより、合格最低点を超えるのに必要なレベルの問題を網羅的に解けるようになっておくことのほうが重要です。深掘りするのではなく、面を取るイメージです。
過去問を見れば、どの問題集までをやるべきかはひと目でわかります。その問題集を上限とし、基本的な問題から解けるようになっていけば必然的に合格します。
これが「東大生オススメの問題集」を鵜呑みにしていはいけない理由でもあります。東大に合格するために解けなければいけない問題レベルと、地方国公立医学部で合格最低点を取るために必要な問題レベルは全く異なります。
まずは過去問を確認し、合格最低点を取るため解けないといけない問題の上限を見定め、問題集のセットを決めるのが受験の原理原則です。
合格者の頭にあった知識を、自分も記憶して臨め
合格最低点を超えるために必要な問題レベルと併せて参考にするのが、合格者が使っていた問題集です。
過去の合格者たちが入試本番で頭のなかにあった知識を自分も身につけて試験に臨めば間違いなく合格できる、という極めてシンプルな思考が背景にあります。
知識には単純暗記と手続き暗記の2種類がある
知識の暗記といっても、みなさんが思っているような「日本史の史実暗記」「生物の用語暗記」といったものだけが知識ではありません。
知識には単純知識と手続き知識の2種類があります。
単純知識とは、単語や人物名のような知識のことです。このような知識は重要ですが、受験生であれば誰でも試験で問われそうだな、と気づいています。
一方、手続き知識とは、数学の解法やケアレスミス対策といった手続きのことです。これも知識であり、意識的に頭に定着させなければなりません。この認識を持つことが非常に重要なのです。
合格最低点を超えるためには、合格最低点を超えるだけの知識を暗記しなければなりません。そこには単純知識も手続き知識も含まれます。
力、読解力、センス、といった「漠然とした能力」ではなく、知識として意識的に記憶に定着させなければらならないのです。
出題されうる問題を、あらかじめできるようにしておく
受験で最低限行っておかなければならないことは、典型問題と言われる問題があらかじめ解けるようにっておくことです。
その問題が解けるようになっておく必要があります。その理由は2つです。
1つは、試験当日に解けるべき問題はすべて典型問題に還元されるからです。典型問題に還元されない、生まれながらの天才的な発想が必要な問題というのは合格者のほとんどが解けません。また、そもそもそのような大学は対策しようがないので志望すべきではない、という話でもあります。典型問題に還元されるのであれば、典型問題に穴があったら絶対に解けません。
もう1つは、典型問題は瞬殺しなければならないからです。典型問題はその場で考えて答えを出すものではなく、瞬時に解けるようにならなければいけない問題です。なぜなら、他の人も典型問題ならあらかじめ対策しておけるからです。試験会場の周りの人たち(合格予備軍)が瞬殺できる問題は、自分もできるようになっておかなければなりません。
このように、典型問題はあらかじめできるよう、解き方を知識として頭に入れるようにしてください。
典型問題は網羅的にできるようになっておくべきなので、松濤舎では数学は『Focus Gold』、理科は『エクセル』シリーズを使うなど、同ジャンルの中では圧倒的に網羅性が高い問題集を指定しています。
思っている以上に、網羅的に勉強している人は少ない
指導していて感じるのですが、自分が考えているほど他の人たちは簡単な典型問題すらきちんとやり尽くしていません。
例えば、エクセル化学という教科書傍用問題集を1冊やったところで医学部に合格することは不可能だと考える人は多いでしょう。
しかし、エクセル化学だけで多くの医学部に普通に合格します。
なぜなら、エクセル化学に載っている典型問題をやりこなしている人が少ないからです。
この感覚は直感に反しているかもしれません。「もっと難しい問題を解かないと合格しない」と考える人が多いですが、そのような間違えた考え方をしている人が多いからこそ、典型問題を網羅的に徹底して勉強した人が、解けるべき問題で確実に得点して合格しているのです。
知識は長期的に記憶する必要がある
試験当日に大量の知識を保持しておく必要があります。つまり、短期記憶ではなく、長期記憶として定着させなければなりません。
長期記憶するためにもっとも有効なのが有意味暗記です。理解して記憶しようとすること、すでに知っている知識に紐付けて記憶しようとすること、ゴロ合わせなど意味のあるものとして記憶しようとすることを指します。
どうしても有意味暗記できないものは分散学習するようにします。つまり、短期的・集中的に頭に定着させようとしても短期記憶になってしまうのですが、間隔を置いて復習するほど長期的に記憶できるのです。
分散学習の対義語である集中学習は、一時的には定着した間隔は得られるのですが、長期的には分散学習のほうが記憶に残りやすいことが科学的に知られています。自分の「なんとなくできるようになった気分」ではなく、エビデンスベイスドな勉強方法を優先的に選択してください。
それでは、有意味暗記と分散学習について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
有意味暗記
長期的に記憶を保持するためには、有意味暗記が有効だということが知られています。丸暗記が優位なのは10歳程度までで、それ以降は理解の伴った記憶のほうが定着します。
簡単なメカニズムの説明ですが、すべての情報は一時的に作業記憶という場所に格納されます。作業記憶は、あくまでも情報を処理するための小さな作業場で、情報を長く格納しておくための場所ではありません。よって、何の工夫もしなければ十数秒以内で消えてしまいます。
しかし、精緻化や体制化といった工夫をして取り入れた情報は、作業記憶に格納されたのちに長期記憶という、無尽蔵な巨大倉庫に移動します。
精緻化とは、自分の知っていることと紐付けて覚えることです。何かに喩えたり、知っていることと結びつけたり、知っているものと比較して同意点・相違点を見つけたり、物語にして(因果関係を踏まえて)覚えたり、ゴロで覚えることを指します。
体制化とは、情報を整理することです。同じものを分類して覚えたり、箇条書きにして覚えたり、粒度を揃えたり、MECEに(漏れなくダブりなく)覚えることを指します。
このように、情報を咀嚼し、理解可能な状態(コンプリヘンシブな状態)にすることが、知識を長期的に定着させるために最も重要なのです。
分散学習
どうしても有意味暗記できないもの(例えば英単語暗記など)は、分散学習するのが効果的です。
復習する間隔を長く置いたほうが、より長く定着することが知られています。そのため勉強はできるだけ早く始め、時間を置いてから復習する、というのが効率的なのです。
また、一教科集中型より複数教科を並行して進め、忘れた頃に復習するようにしましょう。まずは全教科において習得レベル1になることを目指し、ざっと1周回すのがもっとも効率的な進め方となります。
「忘れたのではないかと不安になり、同じ問題を繰り返す」勉強をしても、短期記憶になるだけでなく、新しい知識も学んでいないという、非常に効率の悪い勉強をしているので絶対にやめましょう。
解ける問題はできるだけ放置。問題集に◯×を付けて管理する
できる問題を繰り返さないようにするために、問題集には小問レベルで◯×マークを付け、累積していくようにしましょう。
普段は、まだ解いていない問題、または、×しかついていない問題にだけ取り組むようにしてください。◯がついた問題は模試前に復習すれば十分です。
注意点として、必ず時間を空けて解けるようなっているか確認してください。
時間を空けずに復習し、◯マークをつけてしまうと復習回数が足りなくなってしまいます。必ず一定時間(最低でも3日以上は)置いてから復習するようにしてください。
[PR]松濤舎では、問題集に◯×マークをつけることを「問題集マネジメント」と呼んでいます。
例題が×、類題が◯の問題は、例題のみ復習すればよい
◯×マークをつけることには他にもメリットがあります。それは、復習すべき問題数を減らせるということです。
例えば、例題を解いてみたができず、×マークを付けたあと、解説を読み自力で解けるか確認した。その後、下に載っている類題を解いたところ、解説を呼んでポイントがつかめているので◯マークを付けることができた、となったとしましょう。
これはつまり、例題で学ぶべきポイントが頭に入っていれば、類題も解けるということを意味しています。よって、類題問題はその後解く必要がなく、例題だけ解けるかを確認したらよいということになります。
このように、問題集マネジメントをすることのメリットは多大なのです。
知識は想起できなければ意味がない。問題演習中心で勉強せよ
さて、これまで知識を長期的に記憶させるために有意味暗記と分散学習について話してきましたが、そもそも記憶した知識は取り出せなければなりません。
記憶は「記銘⇒保持⇒想起」という3つのステップから成りますが、実は人間は、一度触れた情報は頭のどこかに残っていると言われています。つまり、保持のところまではいくのですが、最後の「想起」が苦手なのです。
よって、普段から問題演習形式で勉強しなければなりません。
問題演習形式での学習は効率がとても高いことが知られており、テスト効果と呼ばれています。
ただ目にするだけの勉強ではわかったつもりに陥ります。
真にわかった状態とはどんな質問にも耐えうる状態のことを指します。普段から問題演習を通してわかったつもりという準安定状態から自身を引き剥がし、より強固な知識体系を作る必要があるのです。
具体−抽象の往復学習
問題演習形式での勉強は、単に問題をたくさん解けばよいということではありません。
そのまま入試で出題されるならその方法で良いのですが、そんなことは確率的に低いからです。
一般的に使える知識を習得することが重要で、そのためには問題集と参考書を往復した勉強をするようにしましょう。問題集で個別具体的な問題を解き、問題集を読んで知識の一般化を行う。これを具体−抽象の往復学習と読んでいます。
[PR]松濤舎では各教科、参考書と問題集をペアで使用するようにしています。また、問題集も解説が詳しく、知識が体系化されるようなコンテンツが含まれているものを選書しています。
問題演習を勘違いしない
問題演習形式で勉強する必要がありますが、問題演習を勘違いしてはいけません。
まず、問題演習形式で勉強するのは”演習力”といった漠然とした能力を身につけるためでは全くありません。最終的に、その問題が解けるための単純知識、手続き知識を暗記している状態が目標です。であれば、長時間悩むよりも、早く解説を読み、理解しようとする時間を十分に確保した上で、自力で解けるかを確認すべきなのです。
問題を見る⇒長時間考え込む⇒解説を見て納得して終わり
は最悪な勉強方法です。目指すべき勉強方法は、
問題を見る⇒短時間考え、わからなければ解説を読んで理解する⇒自力で解けるか確認する
なのです。
テスト−学習一致の法則
テストの形式と同じ方法で勉強すると効率が良い、という法則があります。
例えば、センター社会ならマーク式なので記述は不要なので、手で書いて覚える必要はないわけです。
記述式のテストであれば、正しい綴りで書いたり、特定の文字数内で答案が作れる練習をする必要がありますが、センター社会では手で書くという作業は不要です(知識の整理やメモの書き込みは除く)。
「手で書くと覚える」というのは幻想です。特に英単語暗記において単語の意味を覚えるということだけに関していうと、手で書くことが却って記憶を阻害する可能性もあることも示唆されています。
学力を厳しくチェックする
問題演習をする際の注意点はわかったと思いますが、問題集の問題が解けるようになったとしても、それは「その問題」が解けるようになっただけかもしれません。また、問題の文脈や、前後の語彙をヒントに思い出している可能性もあります。
本当に”できるようになっているか”のチェックは厳しく行わなければなりません。有効なのは、下記のような確認をすることです。
- 時間を置いてチェックする
- 類題が解けるかチェックする
- ランダムに解いてチェックする
メタ認知について
厳しくチェックする必要があるのは、人間はメタ認知(自分の学力に対する認識)が甘いからです。
特に勉強が苦手な人ほどメタ認知ができないことが知られています。短期記憶になっている知識も「長期的に覚えておける」と甘い見通しを持っていたり、浅い理解でも「理解した」と認識してしまいがちなのです。結果、長期記憶しておけなかったり、浅い理解のため知識を応用することができず、成績が低いままです。
人間はメタ認知が苦手なことを素直に受け止め、前述の「厳しいチェック」を行って、自分の能力を奢らないようにしてください。
第2原理は、広義には「人間に関する原理」
学習効率を上げる方法は、科学的に研究されている
人間の脳のメカニズムを踏まえ、どのように勉強するのが一番効率的なのかを研究している学術分野があります。それが学習科学(science of learning)言われている分野です。
学習科学の研究結果を踏まえて本記事を書いているので、本記事を読むだけで受験勉強に関わる学習科学の知見は一定身につけることができるので、何度も読み、自身の考え方を合わせるようにしましょう。
そもそも人は、正しい勉強方法を選択しにくいということも科学的にわかっています。「正しそう」と認知はするが、実験してみると「正しくない」という勉強方法を選択してしまうそうです。
学習科学の分野で研究された、エビデンスベイスドな方法で勉強するようにしてください。
各教科の勘所を押さえる
各教科には特徴があります。特徴を知り、勘所を押さえた勉強をする必要があります。
例えば、英語については第二言語習得論(SLA)という分野で、どのように勉強したら第二言語を効率的に習得できるかが研究されており、大変有用です。
英単語暗記と長文読解については下記記事にまとめたので、是非目を通してみてください。
「やればできる」が最強の学習観
学習というものをどのようなものだと捉えているか、認識しているかを「学習観」と呼びます。どのような学習観を持っているかによって成績にも影響が及びます。
最強の学習観は「やればできる」というものです。たとえ一発では理解できない問題でも「何度も繰り返せばできるようになる」と考えられている状態を指します。できるようになるまで何度も繰り返すので、実際にいつかできるようになります。また、有効な学習方略を知っているからこそ、実際にやってできるようになってもいます。
一方、「どうせ自分なんてできない」と思っている人は、すぐに諦めるので、実際にできるようになりません。できないのでさらに「自分なんてやってもダメなんだ」と強化されていきます。「どうせ自分なんて」と思っている人ほど、学力は生まれつき決まっているもので、知能は上がらないと先天的な才能に起因させる傾向があります。
まずは本記事を参考にして正しい勉強方法で勉強してみてください。正しい方法で勉強しているので必ずやった分だけ成績が伸び「自分もできるかもしれない」と感じてください。それがそのうち「やればできる」という学習観に育ちます。
“できなくて当たり前”と考える
高校で勉強する内容は、数世紀〜十数世紀前に発見された世紀の大発見、ノーベル賞級のものばかりです。よって、初見でできなくて当たり前です。
できなくて当たり前だからこそ、わからない問題があったらすぐに解答解説を読み、考え方を取り入れることが大事なのです。
ウンウン唸って自分で答えを導き出そうとすることは、下地がない中で世紀の大発見をしようとすることと同じなのです。
これは入試本番にも言えること。本番の限られた時間の中でゼロから考えて解答を導き出せるはずがないのです。
だから、あらかじめ考え方や解き方を覚える必要があるのです。
第3原理:総合得点の高い順に、定員数だけ合格する
志望校に合格するための条件は、たった1つしかありません。それは、
「総合得点の高い順に、定員人数だけ合格する」
です。合格最低点は毎年ほぼ固定なので、
「合格最低点を上回れば合格する」
と言い換えることもできます。これが唯一、志望校に合格するための条件です。
この原理から導かれることはたくさんあります。
合格最低点以上取れる問題集を徹底的にやればよい
合格した人たちがやっていた評判の良い問題集、そして、試験会場に来ている人たちがやっているであろう問題集を、誰よりも徹底的にやり込めば合格します。
合格に必要な知識を内包した問題集を、誰よりも徹底的にやりこみ、合格するのに必要十分な知識が入った状態で試験に挑む。
これが、合格最低点を超える唯一の方法です。
満点を取る必要はない
合格最低点は、だいたいどの大学も6−7割です。つまり、
決して難問が解ける必要はありません。
難しい問題に手を出すことは百害あって一利なしです。難しい問題に手を出してしまうと、入試本番でも解けるかもしれないと思って下手に手を出して時間をロスすることが多いからです。
合格最低点を公表している大学は多いのですが、ご覧になるとわかるように、個別試験の合格最低得点率は6割〜7割台の大学が大変多いです。
つまり4割ほどの問題は解けなくてもよいわけです。
確実に解ける6割の問題で正解することが重要であり、残り4割の問題には最悪、手を付けなくてもいいわけです。
受験では、何を解かないかを決めることがもっとも重要です。
当然、話はそこまで単純ではありません。そもそも手を付けるべきかどうかを判断することは大変高度な作業であり、真に実力がある人でなければ判断ができないからです。とはいえ、とにかくここで言いたいことは、難しい問題まで解く必要はなく、解ける問題だけ取れたら良いということ。そのためには人を出し抜いて特別な対策をする必要があるのではなく、みんなが解ける問題を確実に解く実力のほうが重要であるということです。
もし過去問を見て「こんなに難しい問題が出題されるなら、もっと難しい問題を解かないといけない」と考えてしまったのであれば、それは間違えています。
ちなみに、普段の勉強で難問を解くことは、実はデメリットの方が大きいということは知っておくべきです。
周りが落とさない問題を確実に得点する
難しい問題が解ける必要はありません。
合格最低点はどの大学も6-7割であるため、3−4割の問題は捨ててよいし、捨てるべき。捨てるべき問題に時間をかけてしまい、解けるべき問題が解けない人が落ちる
本番解けなくても良いようなレベルの問題対策に時間をかけた人は落ちます。
入試本番、解かなくていい問題に時間をかけた人は落ちます。
模試と入試は180°違う
模試ではできるだけ高得点を目指して勉強するボトムアップ的な思考になりがちですが、入試本番は合格最低点から逆算し、何を解かないか、解くべき問題をいかに確実にミスなく解くかが重要となります。
模試を受験するのと同じ思考で入試を迎えると悲惨なことになります。オープン模試や過去問演習では必ず合格最低点から逆算し、何を解かないかを見極める練習をしてください。
解けるべき難問と、捨てるべき難問がある
難問には3種類あることには注意が必要です。
1つ目は、典型問題の組み合わせでできた難問です。具体的な典型問題を通して本質を抽出できた人のみが対応できる問題となっています。
2つ目は、対象分野の概念自体が難しい問題です。例えば数学なら、空間ベクトル、複素数平面、回転体、一部の数列など、問題自体の難易度が高いというより、該当分野の難易度が高いため、問題として難易度が上がっているという問題です。このような”難問”は、普段の勉強で逃げないことで対策が可能です。
3つ目は、典型問題の延長線上での考え方では解法にたどり着かない問題です。この手の問題は捨て問です。
第3原理は、広義には「受験の仕組みに関する原理」
大学入試共通テスト
大学入試共通テストとは旧センター試験のことです。
2020年度から本格的に開始しますが未確定な部分も多く、正確な情報発信をできないが残念なところです。
英語4技能
英語4技能とは、英語を「読む」「書く」「聴く」「話す」スキルのことです。
これまでの大学入試は、主に「読む」「聴く」の2技能だけを測定する試験となっていましたが、2020年度以降は英語4技能が重視されるようになります。
すると、全国共通のテストだけで測定することが難しくなるため、外部試験(英検、TOEIC、TOEFL等)を入試に利活用する大学が増えます。
外部検定の活用は2020年度から始まる予定でしたが、2019年11月に延期が決まりました。情報が錯綜しており、まだ正しい情報として開示できない状況です。
AO入試(総合型選抜)、推薦入試(学校推薦型選抜)
2018年度時点で私立大学におけるAO入試、推薦入試の占有率が50%を越えました。松濤舎では、AO入試、推薦入試の情報収集と指導も行っています。
最後に:本番は「シンプルな論理と、強い納得感のある勉強」を重ねてきた事実だけが支え
志望校合格に必要十分な知識を身につけたとしても、それを本番発揮しなければ意味がありません。
極度の緊張の中において100%近い実力を発揮するために、自分を支えてくれるのは、納得感の高い勉強をしたという事実しかありません。
焦ってきても「自分ができないなら他の人もできない問題だろう」と余裕を持って考えられる状態になってください。
「勘所を押さえて勉強した」という強烈な納得感を
受験の「3つの原理」を知っていることや勉強の勘所を知っていることが、自己肯定感を高めます。そして、勘所を押さえて勉強を重ねてきたという事実が、本番の自信に繋がります。
合否はあくまでも結果です。とにかく勉強の過程と、試験時間の過程に集中できるようになる必要があります。そのためにも、押さえるべき勘所を押さえて勉強しているという実感が重要になるのです。
勉強の主導権を握るのはあなたです
諸々の判断を他人に任せてしまうと、自分で考えなくなります。
自分の思考を制御できるのは自分だけです。
他人は情報を伝えることはできますが、最終的な意思決定は本人次第です。小さな意思決定の誤りが、積もり積もって非効率な勉強に繋がります。必ず自身で受験の3つの原理を把握し、自分の頭で判断できるようになってください。
一度受験を経験するとわかりますが、受験会場に持っていけるものは「自身の脳」しかありません。自分の脳の中にあるものでしか勝負できないことを、会場で強く感じるはずです。
その時、自信を持って望めるのか、不安になって実力を発揮できずに失敗するのかは、本番までにどれだけ「シンプルな論理と強い納得感のある勉強」を積み重ねてこれたかで決まるのです。
課された課題を言われるがままやるのではなく、その背景にあるロジックを理解し、強く納得した上で勉強することが学習効率を上げ、入試本番での高いパフォーマンスに繋がるのです。