英単語学習に関する参考図書
英単語の効率的な学習方法は、第二言語習得論(SLA)という分野で科学的に研究されています。詳しく知りたいという方は下記を手にとってみてください。特に高1生など時間がある人は早めに読んでおくと、英単語学習の方針が明確になります。
単語暗記の重要性は高い
従来の学習指導要領では、高校卒業までに習得すべき単語数が3,000語だったのに対し、2020年施行の新学習指導要領では4000〜5000語に増えます。そのため、効率的な単語暗記方法を知ることは一層重要になってきています。
最低3,000語覚え、最大9,000語習得に向けて勉強する
英単語は頻出頻度によって、一般的に3つのグループに分類できます。
分類 | 語数 | カバー率 |
---|---|---|
高頻度語 | 3,000語 | 約94~95% |
中頻度語 | 6,000語 | 約3~4% |
低頻度語 | 多数 | 約2% |
※上記の語数は、派生形なども含め1語と数える”ワールドファミリー”単位です。
高頻度語3,000語は、非常にコストパフォーマンスが高いので必ず覚える必要があります。高頻度語3,000語は、受験生にとっては学習指導要領で定められている「高校卒業までに身につけるべき3,000語」が該当すると考えてください。
語法・イディオムも覚えよう
高頻度語3,000語というとすぐに覚えられそうですが、haveやgetのように1語で複数の意味を持つ単語も1語として含まれているため、語法・イディオムも覚える必要があります。
語法・イディオムはこれまでの指導経験上、習得に時間を要します。簡単な単語の組み合わせなので、高1から覚えるようにしてください。
語法・イディオムは、文法問題集(Powerstage、Vintage、Nextstageなど)に載っているものを覚えたら十分です。
英熟語の単語帳も売られていますが、全教科のバランスを考えると文法問題集に載っているものを覚えるに留めておくほうが効率的です(一部の難関外大受験生は除く)
中頻度語レベルも、英単語帳で覚える
中頻度語6,000語は、会話、映画、小説、新聞を理解するために必要であり(Nation, 2006)、難関大であれば暗記必須です。
そんな中頻度語6,000語を「長文問題集で登場してきたときに覚えればいい」と考えてはいけません。
長文読解中に出会った単語の意味を文脈から覚えるような語彙習得を目的としない学習を付随的学習と言いますが、付随的学習で英単語を覚えるには、12回以上繰り返し目にする必要があると言われています(Nation, 2014)
中頻度語レベルの単語に付随的学習で12回出会うためには、小説約30冊(300万語の英語テキスト)を読む必要があると言われており、学習効率がとても低いです。
一方、単語帳を使って単語暗記をするような、語彙習得を目的とした学習を意図的学習といいます。そして、中頻度語も意図的学習で(=単語帳を使って)覚えてください。
学習効率の観点から、意図的学習では5回繰り返して覚えることを暫定的な目安とするとよいようです(Nakata, 2017)
ですが、現実問題として、覚えないといけない単語は、どれだけ繰り返すとしても覚えなければなりません。
最終的には5回以上繰り返すことになったとしても、高頻度語3,000語レベル、中頻度語6,000語レベルの単語は覚えましょう。
語彙量と長文読解力には強い相関がある
英語試験で大きなウェイトを占めるのが長文問題です。
長文読解力は語彙量と強い相関があることがわかっています。研究によると、相関係数は0.78にも及ぶそうです。
ざっくり言うと、どれくらい長文読解できるかは、どれくらい単語を覚えているかを調べれば8割ほどの精度で予想できるといったイメージで、それだけ語彙量が重要だということです。
詳しく知りたい人は、下記本を読んでみてください。
「文章中で覚えたほうが忘れにくい」は嘘
「単語帳で覚えてもすぐに忘れてしまうが、文脈から推測された英単語の意味は忘れにくい」と言われることがありますが、これは実験で誤りであることがわかっています。
逆に、意図的暗記をしたほうが8倍以上も効果的であることがわかっています。
文脈から単語の意味を覚えていく方法は、単語とは関係のない英文にも目を通す必要があるので効率も悪いため推奨できません。
こうした観点から、Z会の『速読』シリーズは「英単語を覚える」という目的においては推奨できる単語帳ではないと言わざるを得ません。
松濤舎では、Z会の『速読』シリーズを多読多聴教材として多用しています。単語暗記のためではなく、音声と文字から英語を多量にインプットするために使用します。
語彙量が多い人ほど、語彙量を増やしやすい
語彙量を増やしていくと、付随的学習も促進されるという副次効果も得られます。テキスト中の単語のうち95〜98%の意味を知っていると残りの単語の意味をほぼ正しく推測できるので、既知の英単語量が多いほど付随的に覚えられる単語も増えるというわけです。
「富めるものは益々富む」という正のスパイラルに入るためにも、まずは英単語帳を使って意図的に暗記し、英単語量を増やすことが重要なのです。
文脈の中で覚えるメリットもあるにはある
和訳では捉えられないニュアンスや、実際にどの単語とのセットで使うものなのかを学ぶには文脈中に単語があったほうがいいと言われています。
これは『システム英単語』などのコロケーションで覚えさせる単語帳を使って覚えることで補える部分が多いです。
特に難関私立大学ではシス単で覚えたコロケーションがそのまま問われることもあります。もし1冊勉強するとしたら『システム英単語』を推奨します。
低頻度語を覚える(推測する)のに役立つ”語源”
低頻度語を意図的学習で覚えていくのは、コストパフォーマンスが悪いので推奨しません。その代わり語源から推測できるようにしておくとよいでしょう。
語源からボトムアップで、単語の意味が完璧に導けるわけではありませんし、そのようなことを期待すべきでもありませんが、意味を推測する際にはヒントになります。
下記に、3000〜1万語レベルの英単語を分析して作られた「最も役に立つ25の語のパーツ」(Wei & Nation, 2013)を掲載しました。これだけは頭に入れておくと役立つでしょう(引用:『英単語学習の科学』)。
- spec(t)=見る
- posit, pos = 置く
- vers, vert = 回す
- ven(t) = 来る
- ceive/ceipt, cept = とる(こと)
- super- = 越えて
- nam, nom, nym = 名前
- sens, sent = 感じる
- sta(n), stat = 立つ
- mis, mit = 送る
- med(i), mid(i) = 真ん中
- pre, pris = つかむ
- dicate, dict = 言う
- ces(s) = 行く
- form = 形
- tract = 引く
- graph = 書く
- gen = 生む
- duce, duct = 導く
- voca, vok = 声
- cis, cid, 切る
- pla = 平らな
- sec, sequ = 後に続く
- for(t) = 強い
- vis = 見る
テスト形式で勉強しよう
「英単語暗記に影響するのは、学習の回数ではなく、テストの回数である」ということがわかっています(Karpicke & Roediger, 2008)
学習とは「単語と和訳のペアをただ眺めて勉強すること」で、
テストとは「和訳を隠し、英単語の意味を答える勉強」のことです。
学習の回数は英単語暗記への寄与が小さく、テストの回数によって決まっています。これをテスト効果と呼びます。
実は、英単語の意味が全くわからなかったとしてもテスト形式で勉強するほうが効果的であることもわかっているのです。
テスト効果と比べたら、「重要な箇所に下線を引く」「蛍光ペンでマーキングする」といった方法は効果的でないこともわかっています。
テスト形式が効果的であることを、人間は自覚できない
テスト効果の面白いところは、学習者はテストをすることで飛躍的に学習効率が上がることに気づいていないことがわかっている点です(Karpicke & Blunt, 2011)
一般的に人間は、効率的な学習を直感的に選ぶことに長けていないということです。これは他教科にも言えることです。
自己流で勉強したり、難関大合格者が独自に編み出した勉強法を真似るのではなく、科学的なエビデンスのある方法を理性的に選択する必要があるということを意味しています。
これは、自分を律し、正しい方法で勉強する精神力を持っているかが大学受験では求められているとも言えます。
単語カードを使った暗記は効果大
単語カードを使った勉強も効果的・効率的であることが知られています。
テスト形式で覚えられるので効果的ですし、覚えにくい英単語だけを束にして重点的に復習できるので効率的です。カードをシャッフルして確認できるので、負荷を上げてチェックでき、定着しやすくなります。
単語カードを自分で作るのは非効率なので、売られている単語カードを購入するのがよいでしょう。
学習スケジュールの立て方
まずは集中学習と分散学習という言葉について説明します。
集中学習とは、間隔を置かずに繰り返す学習です。例えば、同じ単語をその日のうちに何回も繰り返し目にするような勉強のことです。一方、分散学習はその逆で、間隔を置いて繰り返す学習のことを指します。
そして、分散学習の方が集中学習より、長期的に記憶保持することが知られています。
集中学習は覚えられたという錯覚になる
興味深いのは、長期的には分散学習のほうが効果的であるのに、練習中は集中学習のほうが効果的であると思ってしまうことです。
確かに集中学習をした方が短期的な正答率は上がるので”覚えた気”になるかもしれませんが、それはあくまで錯覚ということです。
例えば、アルファベットの綴りを覚えるためには「Aを5回書いた後、Bを5回書き…Zを5回書く」という勉強より、「Aを1回書いたらBを1回書き…Zを1回書く。再びAに戻り1回書き…」という方法の方が効果的であることが知られています(Ste-Marie, Clark, Findlay, & Latimer, 2004)
どれくらい間隔を空けるべきか?
短期的に覚えておきたいのであれば短い間隔で、長期的に覚えておきたいのであれば長く間隔を置いて復習するのがいいことが科学的にわかっています。
これを遅延効果(lag effect)と呼びます。
では長い間隔で勉強するというのはどれくらいかというと、覚えておきたい期間の10〜30%程度の間隔で復習を繰り返すのがもっとも高い保持率になると一説では言われています(e.g., Bird, 2010)
英単語暗記は毎日やる必要はない
英単語は毎日やるかどうかは重要ではありません。一定期間を置いて勉強することのほうが重要です。
また、一度に学習する単語の数が多いか少ないかも重要ではありません。あくまでも、それぞれの単語がどれくらいの間隔で繰り返されるかに注目すべきだということがわかっています(Nakata & Webb, 2016)
よって、10日に1周するペースで毎日少しずつ進めてもよいですし、10日に1回英単語を勉強する日を決め一気に1周やってもいいのです。
フィージビリティも踏まえると、毎日やると決めておいたほうが習慣になって楽でしょう。週1回やると決めても結局やらず仕舞いになってしまうことも多いですので。
とにかくここでは、同一の単語をどれくらいの間隔を置いて復習したかが論点であり間隔が長いほど長期的に記憶が保持されやすいということがわかればOKです。
「拡張分散学習」は意味がない
復習する間隔は長くしていったほうがいいと言われることがあります。例えば、1日後⇒1週間後⇒1ヶ月後…というようにです。
このような分散学習は拡散分散学習と呼ばれます。
実は、拡散分散学習が効果的であることを裏付ける研究結果はありません。ないばかりか、拡散分散学習はかえって長期的な記憶保持を阻害するという研究結果もあるようなので注意が必要です(Karpicke & Roediger, 2007)
結局、間隔を置いて勉強することが重要であって、間隔を徐々に広げていくかどうかは重要ではないようです。
学習・テスト一致の原則
テストで求められるものと近い形で学習するとよい、という原則があり、これを『英単語学習の科学』の著者は「学習・テスト一致の原則」と呼んでいます。
例えば、長文読解力を上げるために英単語暗記をしているのであれば、英語を見て日本語の意味が頭の中で想起できればOKです。
英単語は書いて覚える(手で覚える?)方が効率的だと思っている人も多いようですが、効率が悪いです。逆に、手で書くことが単語暗記を阻害するという研究結果もあるようです(Barcroft, 2006)
英作文対策が必要な人は、正しくスペリングする必要があるので英語を正しく書き出せるかテストする勉強もしたほうがよいです。
しかし、その場合でも、先に単語の意味を覚えたあと、正しくスペリングすることを目的として書き出す練習をした方が効率的です。
はじめから英単語の意味暗記とスペリングをするのは、どっちつかずになってしまい効率が悪いです。