[推奨]松濤舎の指定問題集です。
近代文語文の学習の仕方
近代文語文を出題する学校は珍しく、対策に困ってしまうように感じられるかもしれません。しかし、基本的な対策としては主に以下の三つがあげられます。
- 古文・漢文の文法事項に関する精確な理解
- 頻出熟語の読み方と意味の暗記
- 近代文語文が書かれた時期(主に明治期)の時代背景のおおまかな理解
1. 古文・漢文の文法事項に関する精確な理解
この対策に関しては、古文・漢文の入試問題に向けての対策となんら変わることはありません。古文ならば助動詞や単語の意味の暗記、漢文ならば文法の精確な理解が求められますが、近代文語文でもそれらと全く同様の知識が求められます。これらの理解が精確であるほど、近代文語文の正しい読解が可能になります。中でも、漢文の文法理解は重要です(豈に~、況や~、等)。近代文語文は主に漢文調で書かれます。したがって、漢文の文法が理解できないと読解が難しいと言えます。
2. 頻出熟語の読み方と意味の暗記
近代文語文に頻出の熟語がいくつか存在します。
例を挙げると「畢竟(ひっきょう)」「僥倖(ぎょうこう)」「跋扈(ばっこ)」「反故(ほご)」など。これらは現在でもしばしば用いられますが、正確な読みと意味の理解がされていないことが多い熟語です。漢字の組み合わせからなんとなく類推することができるものもありますが、頻出のものは覚えておくほうが良いでしょう。一橋大は、設問で意味を聞く場合もあります。
3. 近代文語文が書かれた時期(主に明治期)の時代背景のおおまかな理解
大学が近代文語文を出題する意図の一つは、受験生が「近代」という時代をどの程度理解しているのかを測ることでもあります。出題される文章の主題の多くが「近代」に関するテーマ(開国、文明開化、国家、個人、自由、権利など)です。明治期の文化人が、どのような立場から、どのような問題を、どのような根拠で論じているのかを精確に理解することがカギになります。背景知識をある程度持っておくことで、他の受験生に差をつけることができます。
これら三つをバランスよく体系的に学習していくことが肝心です。
「近代文語文」とは「明治期の文化人たちが工夫して作った論理的文章」のことを指します。したがって、古典の文法事項と論理的展開に留意しながら読解することができれば、心配するほど難しくはありません。とはいえ、近代文語文を取り上げる学習参考書や問題集はあまり数が多くありません。したがって『近代文語文問題演習』は貴重な教材の一つとなります。これを一冊やるだけでも、①~③の理解が大きく深まります。
『近代文語文問題演習』の対象
近代文語文の問題が出題される大学を志望する受験生。
現在、一橋大学と早稲田大学(文化構想学部)、上智大学(経済学部)で出題がされています。
『近代文語文問題演習』に入るタイミング
古文・漢文の基礎的な学習を終え、過去問に取り組む直前。
『近代文語文問題演習』の構成
一橋大学・早稲田大学・上智大学の過去問と、それらに似せて作られたオリジナル問題(複数大学融合型など)が計10題掲載されています。
出典は、森鴎外、福沢諭吉、中江兆民など、明治期に書かれた近代文語文です。第一問から第十問に進むにつれて、出典は古いものから新しいものへと移っていき、時代の変遷をたどることができます。問題の形式は、選択式、語句の理解を問うもの、記述式など設問ごとに異なります。
問題ページの直後のページから、出典の人物についてのプロフィール、全文の現代語訳、要約、設問一つごとの丁寧な解説があります。解説は全体的に図式的で、非常にわかりやすいです。
途中、文法事項についてのコラムがあり、学習の手助けとなります。このコラムには、文法とそれにまつわる時代背景についての記述があります(明治期の「べし」の用法など)。近代文語文は、時代背景を知ったうえで読むと段違いにわかりやすくなるため、必ず読んでおきましょう。
『近代文語文問題演習』の使い方
目安の解答時間が書いてあるので、時間を計りながら解きましょう。
「本書の効果的な使い方」で強調されていることは、解答を終えた後に「自力」で全文の現代語訳をすることです。全てを紙に書き写す必要はありませんが、少しでも心配だと感じた文はメモを書き残しておきましょう。わからない単語は自分で必ず辞書を引きましょう。読みがわからない単語は、電子辞書の手書き入力機能で検索をすると見つけられます。そして完成した全訳を解答のものと比較し、自分の強みと弱点を明確にしておきましょう。
問題文は紙にコピーして取り組み、解き終えたら、初見の熟語や重要な文法事項にマークするなどして活用しましょう。そうすることで、全ての問題を解き終えた後に、自分だけの「例文集」として活用することができます。
一周終えて時間があれば、二周目に取り組むか、もしくは「○○大学の国語」シリーズの近代文語文の設問に取り組んでも良いと思います。
『近代文語文問題演習』を使う際の注意点
本のタイトルの通り「問題演習」が中心となるため、古典文法の基礎が固まっていない状態で取り組むとあまり効果がありません。古文・漢文の学習から近代文語文入試問題への移行の一環として使いましょう。
『近代文語文問題演習』の完了基準
原文の音読と、その現代語訳が自力でよどみなく言えるようになれば完了といえます。
『近代文語文問題演習』の習得レベル
レベル1:文の意味が大凡理解できており、設問の正答率が50%以上
レベル2:文の意味がほぼ完全に理解できており、設問の正答率が80%以上
レベル3:全文を精確に現代語訳することができ、正答率がほぼ100%
『近代文語文問題演習』の目次
第○問 | 内容 |
---|---|
− | はじめに |
− | 本書の構成と特長 |
− | 本書の効果的な使い方 |
第1問 | 森鴎外「洋学の盛衰を論ず」 |
第2問 | 西周「煉火石造の説」 |
第3問 | 福沢諭吉「学問のすゝめ」 |
第4問 | 幸田露伴「趣味」 |
第5問 | 坪内逍遥「小説神髄」 |
第6問 | 徳冨蘆花「思出の記」 |
第7問 | 中江兆民「国家の夢、個人の鐘」 |
第8問 | 森鴎外「独り負うべき荷」 |
第9問 | 中江兆民「考へざるべからず」 |
第10問 | 幸田露伴「劇」 |
第11問 | 福沢諭吉「福翁百話」 |
第12問 | 永井荷風「浮世絵の鑑賞」 |
第13問 | 夏目漱石「現代日本の開花」 |
第14問 | 山田孝雄「国語の中に於ける漢語の研究」 |