目次
- 【導入】英文和訳で得点するために押さえるべきポイント
- 【基礎知識】英文和訳が難しい2つの理由
- 難和訳問題の分類(7つ)
- 和訳問題の採点ポイント
- 和訳問題の出題パターンと採点のポイント
- 英文和訳のコツ3選【解き方の基本】
- 説明問題(≒下線部のない和訳問題)のコツ2選
- 指示語を含む和訳問題のコツ
- 和訳でやりがちなミスとその対処法
- 英文和訳の下準備【演習の前に】
- 英文和訳の勉強法【演習のコツ】
- 英文和訳対策に役立つ参考書・教材
- まとめ ~「コアイメージ」が和訳の真髄~
- Q. 直訳から意訳するのが正しい方法とよく耳にします。
- Q. 和訳は添削してもらうべきですか?
- Q3. 模範解答と照らし合わせて改善点は学べますか?
- Q. 和訳は声に出して読み、日本語として違和感がないかチェックすべきか?
- Q. 和訳練習をする際、辞書は使うべきか?
- Q. 和訳は2文に分けていいですか?
- Q. スラッシュリーディングはすべきですか?
【導入】英文和訳で得点するために押さえるべきポイント
大学受験の英語において、「英文和訳」の問題は、特に国公立大学の2次試験で頻出です。英文の一部または全文を日本語に訳す設問は、英語の理解度と日本語への変換能力の両方を問う伝統的な形式で、得点がもらえる和訳が書けるかどうかは、英語という最も重要な科目において安定して高得点が取れるかを大きく左右します。
このような和訳問題で点を取るには、十分な語彙量と多読多聴量、そして英語を英語のまま理解できる状態であることが不可欠です。これらができれば、日本語への変換能力はさほど重要ではありません。
本記事では、従来提唱されている「直訳→意訳」の順で和訳を作る方法に真っ向から異を唱え、「意訳→直訳」のような、いわば逆和訳法とでも言える方法を推奨します。これは、一見奇をてらっているように見えて、非常に本質的な手法なのです。
流れとしては、まず英文和訳が難しい理由を基礎知識として整理し、次に和訳問題の出題パターンごとの攻略ポイントや採点基準を解説します。さらに、英文和訳の実践的なコツや陥りがちなミスの対処法、そして和訳の点数に直結する勉強法やおすすめ参考書まで網羅的に紹介します。
皆さんが、英文を正確に読み解きつつ、自然な日本語に変換するスキルを高め、入試の和訳問題で確実に得点できるようになることが本記事の狙いです。
【基礎知識】英文和訳が難しい2つの理由
英単語と日本語は一対一対応すると思い込んでいるから
英語と日本語は、一対一対応しているわけではありません。英単語を日本語にただ当てはめていく逐語訳をすると、原文に忠実でも日本語として不自然な訳文や意味不明な文章になってしまいます。
多くの人は構文解析や精読の練習をすることが和訳対策だと思いがちですが、むしろ語彙量を増やすこと、すなわち1つの対してコアイメージを掴み、文脈に応じて柔軟に対応できる知識として習得しておくことが肝心です。
逐語訳をしてから、文脈に応じた適切な日本語に言い換えることが和訳だと思っている人が多いですが、このアプローチをとっていてはいつまで経っても和訳は難しいままです。
英単語のコアイメージという前提知識が必要ですが、それをもとに(意味が通ることを優先した)「ゆるい和訳」を頭の中で作り、最後に「かたい和訳」、つまり文章構造を反映させ、文法のニュアンスを盛り込み、全ての英単語を漏れなく訳すことに注意をした上で、英単語帳的な意味との妥協点を探った和訳を作るのです。
これが”逆和訳法”の真髄です。
英語と日本語の文法構造の違い
英語は、主語と動詞が明示的で語順も厳格ですが、日本語は主語を省略したり文脈で補完したりする柔軟性があります。この違いから、英語の文章をそのままの順序で逐語訳すると、日本語では冗長になったり意味が通りにくくなったりします。
当然ながら、文法構造的に複雑な文章になるほど和訳の難易度が上がります。that には複数の用法がありますし、構造が入れ子状態になっていて並列関係や主従関係、修飾-被修飾関係が非常にわかりづらい問題も出題されます。
このような文法構造の違いが和訳問題を難しくする要因の一つようになっています。
難和訳問題の分類(7つ)
では、実際に和訳問題の中でも難易度が高い問題というのはどのような問題なのでしょうか? これを知ることで、英文和訳の難しさの理解につながります。
分類①:難単語を含む
「『VENN4000』にも載っていない単語=難単語」を含む和訳問題です。1つでも知らない単語があれば、いとも簡単に難問になってしまいます。当然、『システム英単語』『VENN4000』に載っている単語すら覚えていなければ、あらゆる和訳問題が難問と化してしまいます。
よって、和訳で高得点を取りたければ、徹底的に語彙量を増やしましょう。精読や構造解析に力を入れること、ましてや「わからない単語を文脈判断すること」に力を入れるのはナンセンスなのです。ここにまずは気付きましょう。
なお、『VENN4000』にも載っていない単語があったら、それ以外の箇所から整合性の取れる意味を推測するしかありませんが、ここで大きく差がつくことはありません。この手の問題は難しく、他の受験生も点数を落とす箇所なのでそこまで気にする必要はありません。それより『VENN4000』で覚えるべき単語を優先的に覚えることのほうがよっぽど重要です。
分類②:第一義に引っ張られる
知っている単語であっても、第一義(=よく知られている意味)以外の意味で使われることも多いです。難単語と比べ、意味が推測しやすい一方、第一義に引っ張られてしまい、おかしい和訳になることも多いです。
そもそも英単語に第一義も第二義もありません。英単語と日本語は一対一対応しないのです。英単語には英単語独特のコアイメージがあり、それを文脈に応じて適切な日本語を選んでいるに過ぎません。
和訳とは常に近似値でしかないのです。近似値であるため複数の解答が存在しえますし、コアイメージの範囲内であればどんな和訳になっても丸がもらえます。
たまに定期テストや模試などで模範回答と違っただけで、あるいは英単語帳にない和訳を書いたことが原因で減点されることがありますが、それは採点者の力量がないからであって、正しく評価される大学受験本番では全く問題なく点数がもらえるので安心してください。
分類③:難熟語を含む
知らない熟語がある場合も、和訳問題は難化します。前後や下線部内の他の文章を手がかりに推測するほかありません。やってはいけないのは、熟語の字面や印象から意味を妄想し、それが正しいとして和訳を作ることです。文章の内容や前後から「こういう内容であれば自然に意味が通る」というものを優先し、熟語の意味を推測するしかありません。
熟語暗記は沼です。どこまで覚えるかは意図的に線引きするしかなく、松濤舎では覚えるにしても『英文法・語法 Vintage』などの文法問題集のイディオムの章、『速読英熟語』の熟語に絞って覚えることを推奨しています。
大学受験は相対評価です。これ以上やることは費用対効果が非常に低いです。
分類④:文構造が複雑(並列、修飾−被修飾、文の区切り、挿入)
難問の代名詞といえば、複雑な文章構造です。
ベースとしてある程度の文章解析の力は必要です。ただし、複雑すぎる英語構文の練習を大量にしたところで、和訳問題が解けるようになるわけではありません。理由としては、
・昨今の和訳問題は昔と違い、複雑すぎる出題が減ってきたから
・複雑すぎる出題は、周りも解けないため相対的に差がつきにくいから
の2点が挙げられます。構造解析に時間をかけるより、語彙量の増強、英語を英語のまま読む練習をすることが、英語長文全体の底上げにつながりますし、本質的な和訳対策にもなります。
分類⑤:asの訳出
やや粒度は細かいのですが、asの訳出が難しい問題は出題頻度が高いです。「=(イコール)」のコアイメージを持つasを、文脈に応じた「〜として」や「なぜなら」などと訳すわけですが、2つ以上含まれていたり、構造が複雑な場合に難化します。
分類⑥:省略
省略されている箇所を和訳するのには独特な難しさがあります。他の人も取れないので気にするそこまで必要はありませんが、非常に難易度が高まる傾向にあります。
分類⑦:短い語に多くの意味がある
省略にも近いですが、どちらかといえば、その単語のコアイメージを文脈に沿って最大限ふくらまして日本語訳することが求められます。
まとめ:英文和訳の難しさは「語彙量」に大きく影響される
以上のように、和訳問題の難易度は、「語彙量」に大きく依存しています。
文章構造が複雑な問題より、不明な語彙が含まれていることによる難化がもっとも多いのです。
このように、和訳対策のベースに必要なことが、①語彙を徹底して増やす、②意味はコアイメージで覚える の2点だということを、まずは押さえておきましょう。
あまり、和訳対策で語彙量を指摘されることはないかと思いますが、ここに本質が眠っています。
和訳問題の採点ポイント
和訳問題で採点者はどこを見ているのでしょうか? 一般的には、文章構造や英文法の知識が試されていて、逐語訳に近いほうがいいと言われることが多いです。
しかし、このアドバイスは相当ズレています。
採点者が知りたいのは「英語が理解できているかどうか」
そもそも英語長文を読む際、日本語を介しません。英語を英語のまま読んで理解するのが理想ですし、英語教育の最終目標はそこにあります。それなのに、なぜ和訳問題を出題するのは? それは、和訳させることで間接的に英文を理解していることを確認するためです。
いくら英語を英語のまま理解して「理解した」と言っても評価されません。どういう意味なのか、日本語で説明して初めて、理解したと納得してもらえるのです。よって、和訳によってアピールすべきは「理解している」ということです。
そのため、文章構造や文法知識がいくら反映されていても、英単語を一語一義的に日本語に変換しただけのガタガタの和訳では、英文を内容的に理解できていると採点者は思えません。そのため、普通に考えて減点されます。
構造を把握し、文法や英単語のニュアンスを捉え、和訳に反映することは必須です。しかし、逐語訳に近いほうがいいというアドバイスは根本からズレています。
和訳する英文の意味がわかっていることをアピールすることが第一なのです。
「ゆるい和訳」のあと、「かたい和訳」を作る
そのため、まずは英単語、英文法のコアイメージから、ざっくり下線部はこういう意味の英文であるという「ゆるい和訳」を作成します。ここで意味の通る和訳を作っておくことが非常に重要です。
そのためには、英単語や英文法のコアイメージを学習の時点で入れておく必要があり、『VENN4000』や『総合英語 FACTBOOK』を使う必然性がここにあります。
ゆるい和訳を作って答案にしてはいけません。帰国子女やインター出身の人に多いのですが、この「ゆるい和訳」をそのまま答案にするので失点してしまうのです。これが「逐語訳のほうが減点されない」と言われる所以でもあるのですが、最終的には「かたい和訳」にしてから答案を作る必要があります。
「かたい和訳」とは、全英単語、全英文法、全構文を網羅して答案に入れ込むことは前提としながら、英単語や英文法は大学受験用の英単語帳に載っているような意味との妥協点を探ったような日本語訳を作ることを意味します。
ここが受験英語の面倒なところなのですが、そういうものとして割り切るしかありません。
「ゆるい和訳」を意訳、「かたい和訳」を直訳とするなら、従来の「直訳してから意訳する」とは逆の手順で和訳することこそが採点ポイントを押さえており、英語を英語のまま読める人にとって自然な和訳方法なのです。
これが逆和訳法です。
凝った日本語を作ることとゆるい日本語の違い
ちなみに、逐語訳の方が意訳気味の和訳よりもいいと評価する理由として、「凝った日本語や奇をてらった日本語は失点する可能性があるから」と言われますが、そもそも英単語のコアイメージを掴んでいれば、その範囲内の表現であれば和訳はマルがもらえます。コアイメージから逸脱するような表現にした場合、それは凝った日本語というより、そもそも間違った日本語です。
「直訳から意訳へ」の和訳方法は前提に、英単語の意味は1つ(あるいは代表的なものだけ)覚えたらいいという全体が見え隠れします。この前提が大きく間違えているのです。
和訳問題の出題パターンと採点のポイント
和訳問題に出題パターンはあるのでしょうか? それほど多くはありませんが、大きく分けて3パターンあります。
長文中の下線部訳問題:「ゆるい和訳」から「かたい和訳」を辿る
長文読解の一部として出題される下線部の和訳問題では、文章全体の文脈理解が不可欠です。下線部だけを直訳すると意味不明になることが多く、前後の文章の流れや内容を踏まえて訳す必要があります。
まずは下線部が指す英文中の内容を正確に特定しましょう。特に指示語(代名詞)の指す内容を明らかにすることが重要です。例えば下線部に “this” や “they” が含まれていれば、それが指している直前の具体的な内容を踏まえて訳出する必要があります(問題文で指示があることが多いですが)。
次に、下線部であったとしてもいきなり構造解析などをせず、英語を英語のまま理解します。地の文と同じようにまずは読むということです。和訳問題として出題されるだけあって、難しい単語が含まれていたり、文章構造が複雑になっていることもあるでしょう。そういった場合は、手を動かす前に何度も下線部を読むのです。そうすると、だんだんと「こんな意味では?」というものが見えてくるようになります。
英語を英語のまま読み、理解することに重点を置くことで、実際に意味もとれるようになります。英語を英語のまま理解した内容を、もしどういう意味かと問われたとしたら、ふわっとした日本語で説明するはずです。
このふわっとしたゆるい日本語訳を作るのが、非常に重要なのです。正直、ゆるい日本語訳さえ作ってしまえば、9割解けたも同然といえます。
ゆるい日本語訳は、英単語のコアイメージを掴んでいるからこそ作れます。
当然ですが、下線部が長い場合でも途中を省略せず文の始めから終わりまで訳し切ることが求められます。下線部の和訳答案が文として完結していないと原則0点になると考えてください。途中で投げ出さず、ピリオドまで訳しきることを徹底しましょう。
長文中の下線部訳問題+指示語
指示語が含まれている場合、基本的には問題文で「指示語が意味していることも含めて訳しなさい」といった指示が書かれています。itであろうがthatであろうが近くにあることが多いので、それを踏まえて訳します。
長文中の説明問題
説明問題に苦手意識を感じている人も多いですが、説明問題とは「比較的ゆるく訳していい和訳問題」だと考えてください。説明問題であっても、訳すべき箇所ははっきりしていることが多いですし、和訳問題と比べて和訳の厳密さはそこまで求められません。よって、和訳問題よりも簡単ともいえます。
例えば私立医学部の場合、和訳問題ではなく説明問題を出題する大学があります。これは、和訳問題は厳密な採点が必要な一方、説明問題なら「書いている箇所が正しく、内容もわかっていそうなら正解、それ以外は不正解」とスピーディーに採点できるからです。
比較的粗く訳していい和訳問題だと考えれば、説明問題に対するアレルギー反応も和らぐのではないでしょうか。
採点者はここを見る!内容理解のアピールが最優先、単語や文法の網羅は当たり前
以上のように、採点者はまず、その和訳を通してその子が下線部の意味を理解していそうかどうかをまずは判断します。理解が伴わず、ただ英単語を日本語に変換しただけでに見えるものは、ベースの点数が下がると考えてください。理解しているか確認するために、和訳してもらっているだけなのですから。本来なら英語理解に日本語訳など必要ないのです。皆さんが、日本語理解するときに、わざわざアラビア語を経由しないのと同じです。日本語を日本語のまま理解できたらいいわけです。
理解していることをアピールしながら、英単語や英文法をすべて網羅し、そのニュアンスを盛り込みます。これができたらOKです。
「構造が理解できていることをアピール」「意訳より逐語訳の方がまだいい」といった表面的なアドバイスは本質ではなく、明らかにずれていることがお分かりいただけたかと思います。
英文和訳のコツ3選【解き方の基本】
これまでも少し触れてきましたが、改めて英文和訳するためのコツ(手順)をご紹介しましょう。
①まずは英語を英語のまま理解する
そもそも和訳問題は長文問題の一部ですので、英語を英語のまま理解することは当たり前です。その上で、和訳すべき下線部の英文も、他の文と同じように英語を英語のまま理解します。いきなり手を動かして構造解析したりはしません。下線部以外も英語を英語のまま理解することで、下線部の英単語を、コアイメージの範囲内ので、文脈に応じた和訳もできるようになります。全文をざっと読めるスキルは和訳問題のためにも必須です。
②「ゆるい和訳」をつくる
英語を英語のまま理解した上で、あえて日本語に訳せと言われていますので、まずは英語のコアイメージのまま、ゆるく和訳します。基本的には頭の中でやればOKです。何度も下線部を読んでいくと、構造解析などしなくても「だいたいこういう意味だよね」というものが作れるものです。
③「かたい和訳」を作る
最後に「ゆるい和訳」をベースに、すべての英単語や英文法を盛り込みつつ、コアイメージの範囲内で文脈に応じた適切そうな日本語を選んでいきます。受験英語なので、採点官が採点しやすいよう、英単語帳的な意味との妥協点を探るような感覚で作るとちょうどいいでしょう。
このように、従来の「直訳→意訳」とは逆のアプローチである「ゆる→かた」で和訳を作ってみると、非常に滑らかに和訳を作ることができます。
説明問題(≒下線部のない和訳問題)のコツ2選
① 和訳する箇所を探す
説明問題は、和訳すべき箇所さえ見つけたら、ただの和訳問題になります。和訳する箇所の見つけ方は、英文全体の大きな流れをマクロに捉えることが非常に重要です。
前英文を和訳しながら読んでいる人、精読の延長線上に長文読解があると思っている人は、英文をミクロに読みすぎていて全体の流れや著者の言いたいことが掴めず、説明問題もうまく解けません。根本は英語を英語のままざっと理解するスキルがないからですが、それに加えて、英語長文の読み方を知らないというのも影響しています。
松濤舎では「レントゲン読解法」という読み方を提唱しています。この読み方をすることで、英文全体のトピックや大きな流れを掴み、緩急をつけた英文読解を可能にします。英語長文を冒頭から順に読んで、速読ができるはずがありません。長文中の重要/非重要な箇所というのはディスコースマーカーでわかるわけではなく、長文の主題に関係しているかどうかで決まるため、先に主題(=骨格)を見つけにいくというのが、このレントゲン読解方なのです。
② 和訳の厳密性は下線部和訳よりも下げていい
説明問題では、該当箇所をすべて厳密に訳す必要はありません。訳してもいいのですが、スタンスとしては「ゆるい和訳」寄りの和訳でもOKだということです。そう思っていれば、説明問題に対する恐れも軽減することでしょう。
指示語を含む和訳問題のコツ
指示語・代名詞の指す内容を明確に訳す
英文中の it, that, this, they などの指示語(代名詞)を日本語に訳すときは要注意です。英語では指示語を繰り返し使って文章の論理を展開させますが、日本語で同じように「それ、それ」と連発すると読みにくくなります。したがって、指示語は何を指しているのかを把握し、日本語では可能な限り具体的な内容に置き換えて訳すのがコツです。
例えば “He was tired of this” という文があれば、this が指す内容によって「この状況にうんざりしていた」「この仕事に飽き飽きしていた」などと訳し、「これにうんざりしていた」とはしない方が親切です。特に下線部和訳問題では、指示語をそのまま訳すか具体化するかで採点上の評価が分かれることがあります。
一般に、指示語の多用を避け、日本語では省略または具体化する方が自然な訳になります。実例として、”She had left her book here the other day, so she wanted to pick it up.” という文をそのまま訳すと「彼女は先日彼女の本をここに置いて行ったので、それを取りに来た」と指示語だらけになりますが、「彼女は先日本をここに置いて行ったので、取りに来た」のように言い換えるとすっきりします。指示語=「それ/彼ら」と短絡せず、文脈に応じて指し示す対象を織り込んだ訳文にすることを常に意識しましょう。
和訳でやりがちなミスとその対処法
ここでは、英文和訳の答案作成で受験生が陥りやすいミスを2つ挙げ、それぞれの防止策・修正法を紹介します。当てはまる癖がないかチェックしてみてください。
単語の思い込み訳に注意:知らない意味は『VENN4000』で確認
よくあるミス①:単語の意味を思い込みで決めつけて誤訳すること。英単語の一つの意味だけしか知らないと、文章によっては全く見当違いな訳になる恐れがあります。
例えば “issue” を「問題」とだけ覚えている人が “issue a magazine” を「雑誌の問題」と訳してしまう、といったケースです。本来は「雑誌を発行する」です。このような語義の思い込みを避けるには、必要十分な語彙を、コアイメージと合わせて覚えることです。
特に、英語を日本語に訳してから理解する姿勢が身についている人が陥りやすいミスです。仮に置いた日本語だとしても、日本語に一度訳してしまうことで、その意味に引っ張られてしまいます。
日本語に訳す前に、英語を英語のまま理解する。そして、コアイメージをもとにふんわりと「ゆるい和訳」で捉えてみる、というステップが必須です。意味が通ってから「かたい和訳」にするのです。
英単語の意味ありきではなく、文章全体の内容や前後の文脈も踏まえた意味ありきで、英単語の意味を特定しくという順番のアプローチが正しいのです。
和訳の採点ポイントは「理解しているかどうか」なのでした。英単語の第一義に引っ張られ、ナンセンスな和訳を作った瞬間に、その箇所だけ部分点が引かれるのではなく、全体としてバツになる可能性が非常に高いことを心に刻みましょう。逆に意味が通っていれば、単語の意味が違ったとしても部分点が引かれるだけです。あるいは、もしかしたらコアイメージの範囲内だと判定され、問題なくマルがもらえるかもしれません。
文構造の取り違えに注意:主語・動詞の把握に立ち戻る
よくあるミス②:英文の構造を誤解して訳を取り違えること。これは英文和訳で減点を食らう代表的なパターンです。
例えば、関係代名詞節の先行詞を誤認したり、分詞構文の主語を取り違えたりすると、原文とは異なる内容の訳になってしまいます。こうした構造ミスに気付かず訳を書いてしまうと、大幅減点は免れません。
対処法は、正しい文法知識を入れるのみです。和訳問題に限らず、文法知識は最低限必要になるので『英文法・語法 Vintage』のような文法問題集を一冊決め、8割以上の正答率を目指せば十分です。偏差値75まで対応しています。
文構造で意識すべきはたった1つ。文の骨格は主語と述語から成りますから、まずこの2つを確認することです。
それでもわからない場合は、細かく構造解析をするより、下線部の英文を何度も読み、意味を掴もうとしてみてください。あるいは「ゆるい和訳」を作ろうとすることで、意外と意味がわかったりします。「構造はわからないけれども、単語の意味的にきっとこういう意味・構造だろう」と、バックキャスト的にわかってくるのです。
「和訳問題は構造解析しなければ理解できない」というのは、完全に思い込み(=英語塾や予備校による刷り込み)です。難しい和訳問題こそ、手を動かさず、構造解析せず、英単語や英文法のニュアンスから理解してみるのは東大英語でも使える非常に有効な手段です。是非試してみてください。
英文和訳の下準備【演習の前に】
繰り返しお伝えしたように、英文和訳ができるかどうかは、
・語彙量を圧倒的に増やす(=VENN4000の収録語彙が必要十分)
・英単語をコアイメージで覚える(VENN4000を使えばOK)
・英文法のコアイメージを覚える(=FACTBOOKが最適)
という前提知識が必須です。語彙量が足りず、一語一義で意味を覚え、英文法を一問一答形式で覚えているうちは、英文和訳で再現性をもって高得点を取ることは不可能です。
逆に、必要十分な英単語をコアイメージで覚えていて、英文法のコアイメージを習得している人は、
①英語を英語のまま理解する
②コアイメージをもとに「ゆるい和訳」を作る
③英単語・英文法を漏れなく盛り込み、受験英語であることを意識して「かたい和訳」に整える
という自然な3ステップを踏むだけで、勝手に最適な和訳が完成します。
この過程で「直訳か意訳か」といった概念自体が存在しません。英語を英語のまま理解したものを、徐々に日本語に”ふやかす”ようなイメージで訳していくのです。これが正しい和訳の手順です。
英文和訳の勉強法【演習のコツ】
英単語や英文法の知識を入れることはもとより、「ゆるい和訳」「かたい和訳」を作ることは、一朝一夕で身につくものではありません。というより、和訳のための学習という概念を捨て、長文読解の延長線上に自然と正しい和訳スキルがある、と思ってください。
ここでは、長文読解というもっとも重要な目的達成と、その派生としての英文和訳という位置付けで、効率的な演習のコツ4つを紹介します。
易しい英文を、ゆっくりでいいので、日本語を介さず、英語の語順通り理解する練習を積む
和訳ができるためには、ベースに「英語を英語のまま理解できる状態」になければなりません。
英語を英語のまま理解するということがわからない人が多いので、ここで簡単に解説します。
前提として、小学校や中学校で第二言語として英語を習う際は、英語→日本語→理解 という手順を経なければなりません。一度日本語を介さなければ英語は理解できなかったのです。
しかし、そのような状態を高校でも続けては、長い長文を短時間で処理することなどまず不可能です。そのため、日本語を経由するという経路をシャットダウンし、日本語の想起を経由せずに理解するのです。
例えば、次の英文を見てみてください。
The question of whether machines can think has been a topic of debate ever since the invention of computers.
冒頭の「The question」は、わざわざ日本語に訳さなくても意味わかりますよね。クエスチョンは日本語でも使うくらいなので、問題ないはずです。「whether」も、「〜かどうか」と訳さなくても、そういったような意味であることは、日本語に変えなくても記号的に理解できます。「machines can think」も大丈夫ですね。マシーンは日本語でも使いますし、「can think」は非常に簡単な英語です。これを「考えることができる」という日本語に訳してから理解する必要はありませんね。
「has been」もいいでしょう。過去から現在までずっと続いていることを意味する「記号」として理解できます。「a topic of debate」も、もはや理解でるはずです。「ever since」も大丈夫ですね。「the invention of computers」も別に理解できると思います。
このように、いちいち日本語に訳さなくても理解できるのです。最初は変な感覚あると思います。日本語を介さないむず痒さというか、物足りなさみたいなものが。しかし、この「日本語への経由をシャットダウンする」という意識が非常に重要なのです。
最初はゆっくり始めることがコツです。ゆっくりでいいので、日本語を経由しないのです。
そして、簡単な英語から始めることもポイントです。わからない英単語があると、必ずその意味(日本語)を脳は検索しようとします。すると、日本語にアクセスする神経回路を使わざるを得なくなります。
英語を読むのが嫌いな人、苦手な人の多くは、英語を日本語を介して理解するものだと思っています。わざわざ日本語に直すことがまどろっこしく、面倒なので、英語を読むのが嫌いになります。日本語を介して理解するなら、最初から日本語で読みたいと思うはずです。
しかし、英語が得意な人は、英語のままダイレクトに理解できるため、このストレスがありません。逆に、英語でしか表現できない文、英語独特の表現、英語ならではの短い表現などに出会い、英語という言語の効率性と表現の豊かさに気づき、英語を読むのが好きになります。
まとめると、簡単な英語を、ゆっくりでいいので、冒頭から順に、日本語を介さずに理解していく、ということを行なっていってください。
先ほどの英文を再掲しますが、どうでしょう。できるようになっていますか?
The question of whether machines can think has been a topic of debate ever since the invention of computers.
これが英語を英語のまま理解するということであり、長文読解の根幹をなす部分です。
語彙量や文法知識、そのコアイメージが習得できている前提であることは繰り返しお伝えしている通りです。
ゆるい和訳を作る
次に、ゆるい和訳を作る練習をしてみてください。もしかしたら練習という言葉が適切じゃないくらい、簡単な作業ではあります。例えば、先ほどの英文に下線が引かれていて、和訳しなさいと言われていたら、どうでしょうか。
The question of whether machines can think has been a topic of debate ever since the invention of computers.
なんとなく、スラッシュを引いたり、構造解析したり、修飾-被修飾の係り受けを探したり・・・とやろうとする人が多いのですが、絶対にやめてください。
下線が引かれていたとしても、他の文と同じように、英語を英語のまま理解するのです(先ほどやったように)。そのあと「ゆるい和訳」を作ります。「ゆるい和訳」は頭の中で作ればOKです。
「ゆるい和訳」とはどういうものかというと、今回の英文であれば、はじめ、
①「問い、〜かどうか、マシーンが考えられる、というのはずっとトピックだった、ディベートの、からずっと、発見、コンピュータ」
くらいの断片的なものから、もう一度読み直して、
②「マシーンが考えられるかどうかという問いは、過去から今までずっと、ディベートのトピックだった。コンピュータの発明からずっと」
という感じで少しずつ塊を作っていき、さらにもう一度読み直して、
③「マシーンが考えられるかどうかという問いは、コンピュータの発明からずっと、ディベートのトピックだった」
くらいの、ざっくりした和訳のことです。ここで重要なのは、
・手を動かさずに何度も読むことで意味を掴もうとする
・意味を掴もうとすることが優先で、細かい訳し漏れなど重視しない
ということです。今回も、「コンピュータが発明されてから、コンピューターってとても賢いけど、物事を考えることってできるんだっけ?という問いはずっとあるよね」みたいな内容だということが掴めていたらOKです。
この過程はそれほどトレーニングしなくてもいけるはずです。今回の英文くらいであれば30秒もあれば「ゆるい和訳」は作れます。
かたい和訳を作る
「ゆるい和訳」さえ作れていれば、本来ならOKなのです。英語は意味が理解できていればいいのです。しかし、私たちがやっているのは受験英語。厳密に100%理解していることを証明するために、
・英語単語や英文法のニュアンスの訳し漏れをなしにする
・コアイメージの範囲内で訳すが、可能であれば英単語帳に載っている意味に寄せる(妥協点を見つける)
ということをしなければなりません。例えば、今回の英単語は以下のようなコアイメージを持っていたらよく(これを覚えてほしいというわけではなく、英単語帳に載っている複数の意味から「ざっくりこういうイメージの英単語」と覚えてくれたらOKということ)、この範囲内であればどんな日本語にしてもいいのです。
“question”
コアイメージ:疑問、問い、課題
“whether”
コアイメージ:二択の選択、可能性の検討
“machines”
コアイメージ:人工的に作られた装置
“think”
コアイメージ:意識的な思考活動、推論
“ever since”
コアイメージ:特定の時点から現在まで継続
“invention”
コアイメージ:新しく作り出すこと
唯一の正解はないですが、英語本来の意味を日本語として表現する(近似値を見つける)としたら、
コンピューターが発明されて以来、機械が思考できるかという問題は議論の的となってきました。
といったような訳になるでしょう。「ゆるい和訳」が、
マシーンが考えられるかどうかという問いは、コンピュータの発明からずっと、ディベートのトピックだった。
ことを踏まえれば、随分とフォーマルな文章になりましたね。
訳し漏れがないかチェックする
答案として完成させる前に、必ず一語一語、訳し忘れがないか、ニュアンスが盛り込まれているか、チェックしましょう。まるで、電車の車掌さんが指差し確認をするように、英単語を一つ一つ指差し確認するくらい、しっかりやりましょう。
AIを活用して許容範囲を探る
今の時代、AIを活用しない手はありません。模範解答と付き合わせて自分の答案があっているかを確認するだけと比べ、圧倒的に和訳の精度が上がり、知識も増えます。具体的には、次のようなプロンプトを入力してみてください。
次の英文を、私は以下のように和訳しました。
各英単語のコアイメージをそれぞれ示した上で、模範解答を提示し、その上で私の和訳の改善点を挙げてください。
{英文}
{和訳}
AIモデルは日進月歩で進化するため、その都度よきモデルを選択してみてください。
英文和訳対策に役立つ参考書・教材
英文和訳対策に有用な教材を紹介します。ただし、英文和訳だけのための対策は不要で、語彙、英文法、長文読解(=英語を英語のまま理解するトレーニング)が和訳対策の9割を占めており、和訳そのもののトレーニングは、英語長文問題集に出てきたものをやる程度でOKです。
特に高校生は、日本の悪しき習慣で、教科書の全文和訳などを授業でしていることでしょう。全文和訳は「英語は日本語に訳してから理解するもの」という誤った英語観に繋がるため絶対にやらないでほしいのですが、これを和訳の練習機会として捉えてみるといいでしょう。
では、英文和訳対策につながる教材をご紹介します。
英単語の徹底的な習得:『VENN4000』
何度も登場してきましたが、『VENN4000』は必須です。「他の人が英単語帳で覚えている可能性がある全単語を網羅する」というコンセプトをもとに作られた英単語帳で、主要な大学受験向け英単語帳23冊のうち、2冊以上に収録されている見出し語、4,600語超を収録しています。「自分が使っている英単語帳には載っていなくて、他書には収録されている英単語」を覚えないままでいるのは不安ですよね。模試や過去問で出てきた知らない単語は、もしかしたら自分が使っていない単語帳に載っている可能性があるわけです。そういった可能性を排除できる、医学部・上位校受験生向けの英単語帳が『VENN4000』です。
英文法のニュアンスの習得:『総合英語 FACTBOOK』
英文法を言語的知識として身につけるのではなく、ニュアンスとして習得できるのが『総合英語 FACTBOOK』です。従来の文法書が「理屈っぽく説明するアプローチ」だったのに対し、本書は「ネイティブの感覚に基づくアプローチ」で説明されています。これによってコアイメージを形成することができ、英語を英語のまま理解することにも、ゆるい和訳を作ることにも、かたい和訳を作るときにも、役立ちます。必携です。
多読多聴教材:『速読英単語』シリーズ
英単語や英文法のコアイメージを掴んだだけでは、スピーディーに英語を読むことはできません。「英語→理解」の神経回路を鍛えるためには、シンプルに多くの英語を読み、聴く必要があります。そのために最適な教材が「速読英単語」シリーズ(Z会出版)です。
最初は入門編から使ってみてください。とにかく簡単な英文でいいので、英語の語順通り、日本語を介さずに理解することがどういうことかをわかってほしいのです。難しい英文を読んでも、日本語を経由して理解することになるので、学習効率が半減以下になります。
速読シリーズの使い方にも書いてありますが、リスニングをしたり、英文を見ながらのシャドウイングもしたりします。リスニングは英語を英語の語順通り、ナチュラルスピードで理解しなければならないので、日本語を経由している暇がありません。つまり、強制的に英語を英語のまま理解せざるを得ない状況になるのです。
英文を見ながらのシャドウイングも、日本語を介している隙がないので、英語を英語のまま理解するようになります。
このトレーニングが非常に効果的なので、正しい使い方で速読シリーズをぜひ使ってみてください。
長文問題集:『Rise読解演習』シリーズ
実際に長文問題や和訳問題を解くのに適しているのが『Rise読解演習』シリーズです。こちらもZ会出版から出ており、多くの受験生の添削指導をしてきた背景があるからか、解説が非常にわかりやすいです。
和訳問題を解くのは、この『Rise読解演習』シリーズを使っていればまず問題ないです。それ以外は、模試や過去問を通して演習していけばよいでしょう。
まとめ ~「コアイメージ」が和訳の真髄~
英文和訳問題で高得点を取るには、「コアイメージの習得」が非常に重要であることがわかっていただけたのではないかと思います。コアイメージの習得が、英語を英語のまま理解すること、ゆるい和訳を作ること、かたい和訳を作る際の日本語選択の方針になること、がわかっていただけたと思います。
英文の構造解析もある程度は必要ですが、複雑ではない英文を、より正確に和訳する能力の方が圧倒的に優先順位が高いです。和訳問題のうち、さらに構造が複雑な問題の出題頻度は全然高くないですし、そのために2冊も3冊も構造解析や精読の練習をするのは完全に戦略を間違えています。
また、自然な日本語で表現するということも声高に言われていますが、一方で意訳は厳禁のようなことを言われたりします。模範解答を参考にせよと言われますが、初見の問題は解けるようにはなりません。これらを一挙に解決するのがコアイメージの習得です。コアイメージさえ習得してさえいれば、その範囲内での和訳は文脈的に間違えてなければどの和訳も正解です。コアイメージという判断基準(制限範囲)を知らず、ただ日本語表現力なるもの磨いたところで何にもなりません。「直訳と意訳のバランスをとることこそ和訳の極意」と言われることがありますが、違います。「コアイメージの中で、文脈にあった日本語を選べば、なんでもOK」なのです。
とはいえ、英単語、英文法のコアイメージを知識として知っているだけではスムーズな英文理解、スピーディーな英文和訳にはつながりません。知識をスムーズに使えるようになるには、多読多聴の絶多量が必要になります。高校生になったら1日1長文はマストで読むようにしましょう。『速読英単語 入門編』レベルの英文から、日本語を介す回路を断ち、英語の語順通り、理解していくトレーニングをするのがおすすめです。
本記事で紹介したコツや勉強法を参考に、まずは英単語と英文法の知識習得を徹底しつつ、中学〜高校初級レベルの語彙量で読める英語長文を読んでいきましょう。和訳問題を解く機会があれば、「ゆるい和訳」から「かたい和訳」を作る練習をし、AIに各英単語のコアイメージを尋ね、その上で自身の和訳の改善点を教えてもらいましょう。
こうした本質的なトレーニングこそが英文和訳の得点を飛躍的に向上させ、医学部・上位校受験でもっとも重要な英語科目の成績を安定的に高得点で推移させることができます。
以上、皆様の英文和訳の勉強の参考になれば幸いです。
Q. 直訳から意訳するのが正しい方法とよく耳にします。
よく、和訳は直訳から意訳をするよう言われますよね。例えば、次のようにです。
直訳の段階までできたら、最後に日本語として読みやすい表現に推敲するステップを踏みましょう。英文の語順に忠実に訳しただけでは、どうしても日本語らしさに欠けることが多いです。そこで、出来上がった逐語訳文をじっくり読み直し、必要に応じて語順を入れ替えたり補足説明を加えたりして、自然な日本語に仕上げる作業を行います。例えば英語では結論→理由の順で書いている文も、日本語では理由→結論の方が自然な場合があります。そのときは、日本語訳では文の順序を逆転させても構いません。重要なのは、原文の意味が正確に伝わる範囲で日本語表現を調整することです。この調整で意識すべきは、「直訳と意訳のバランス」です。直訳だけでは不自然でも、だからといって原文にないことを勝手に補って流暢な文章にするのはNGです。あくまで原文の内容を完全に含みつつ、日本語として読みやすい文章にするという観点で推敲します。推敲後には一度声に出して訳文を読んでみるとよいでしょう。自分の書いた日本語訳を音読してみて、日本語の文章として違和感がないかチェックするのです。読みづらかったり意味が取りにくかったりする箇所があれば、日本語表現を改めます。この「音読によるセルフチェック」は簡単ですが効果絶大で、プロの翻訳者も自然な訳文にするためによく使う方法です。試験本番でも、時間に余裕があれば訳文を小声で読み直してみるとミスに気付きやすくなります。最後の仕上げまで丁寧に行い、原文の意味を的確に伝える滑らかな日本語訳を完成させましょう。
しかし、多くの受験生は直訳と意訳の境界線がわからず、意訳することを極度に恐れ、英文を理解していることのアピールというもっとも重要な要素を削ぎ落としてしまいます。これでは本末転倒です。
そもそも「直訳」という概念自体がナンセンスです。そもそも英語と日本語は1対1対応するものではないのに、直訳も何もないからです。これは日本語の英語教育が根本的に間違えている部分で、本来は英単語や英文法が持つファジーなニュアンスというものを習得していくことこそが重要であるのに対し、1対1で意味を暗記させるような教育をするからこそ、その1対1で対応する日本語をまずは置き、そこから”良きように”和訳せよというアドバイスになるのです。
そうではなく、最初から解釈の余地を持たせたコアイメージやニュアンスというものを習得し、まずはそれで訳してから、最後にコアイメージの範囲内で適切な日本語を選んでいくようにしないと、いつまでも経っても英文和訳に対する苦手意識は拭えないですし、実際に点数もこないのです。
Q. 和訳は添削してもらうべきですか?
次のように言われることがあります。
学校の英語教師や塾・予備校の講師は、和訳のプロでもあります。自分の訳した文章を見てもらい、どこが間違っているのか、どう直せばよいのかを指導してもらえば、独学で悩むより速く問題点を解消できます。特に「なぜその日本語訳ではダメなのか」が分からない場合、専門家の視点で教えてもらうと腑に落ちるでしょう。
しかし、塾や予備校の講師がどこまでプロかと言われれば非常に疑問が残ります。それよりもAIを最大限活用し、「コアイメージ」「文脈」を踏まえた「自身の答案の改善点」を聞いた方が、圧倒的に適切なフィードバックが得られます。
その上で判断できないこと、「受験英語」という背景における判断について、講師にセカンドオピニオンを仰ぐのが効率的です。添削はたいして有効ではありません。次につながる学習にするためにも、AIにコアイメージを聞き、それを踏まえた自身の和訳の改善点についてフィードバックを受けましょう。
Q3. 模範解答と照らし合わせて改善点は学べますか?
よく、以下のように言われることがあります。
問題集の模範解答や解説と見比べることをお勧めします。大学入試の過去問や問題集には詳しい解説が付いているので、自分の訳文と模範解答との違いを確認しましょう。具体的には、訳し方の表現の違いを比較します。自分の訳では冗長だった部分が模範では簡潔に表現されていたり、逆に自分が省略してしまったニュアンスを模範がきちんと訳していたり、といった発見があるはずです。そうした違いはすべて学びの材料です。例えば「~であることが判明した」という英文を自分は「わかった」とだけ訳したが、模範では「判明した」と格調高く訳していた場合、今後はその表現を真似できます。
しかし、どのような表現をしていいかは、「英単語や英文法のコアイメージ」と「文脈」の二変数で決まります。これが解説されていなければ、模範解答をどこまで参考にすべきか判断がつきません。そういう意味では、問題集の解説というのは非常に不完全なのです。
かといって、人に質問をしても、どこまで時間を割いてもらえるかわかりませんし、そもそも解説者がどこまで博識かにも大きく左右されます。
コアイメージの知識や言語操作能力はAIが圧倒的に優れています。先ほどのプロンプトを参考にしながら、コアイメージを掴み、それをもとに適切な日本語を選んでいく練習をするのがもっとも効率的です。
Q. 和訳は声に出して読み、日本語として違和感がないかチェックすべきか?
直訳気味かどうかを判断する際に、声に出して読むといいと言われることがあるかと思います。例えば、次のようにです。
内容は合っていても、日本語表現が不自然だと減点される可能性があります。特に、主語を何度も「~は~は」と繰り返したり、英語の語順に引きずられて形容詞を後ろから無理に訳したりすると、**「翻訳調」**と呼ばれるギクシャクした日本語になります。これを防ぐには、訳文を書き終えたら必ず自分で読み返す(可能なら音読する)習慣をつけましょう。声に出して読んでみて、スラスラ読めない箇所や意味が取りにくい箇所はないか確認します。もし自分で読んでわかりにくければ、他人(採点者)が読んだら尚更伝わりません。例えば一文が長すぎて息継ぎしづらければ日本語の読点「、」を足す、同じ言葉が何度も出てきて煩雑なら言い換えるか省く、など日本語的な文章の整え方を施します。
しかし、このような定性的なチェックで正しく和訳できるとは思えません。このような感覚頼りの和訳の方法論しか持ち合わせていないのでは、安定して高得点を取ることはできません。
英語を英語のまま理解し、理解していることをアピールする答案になっていることが大前提として重要になってきます。その中で、大きくコアイメージから外れることなく、日本語に変換できていれば何ら問題ありません。
Q. 和訳練習をする際、辞書は使うべきか?
よく、英語辞書を使うように言われることがあります。例えば、次のようにです。
辞書を活用する習慣が欠かせません。知らない単語はもちろん、知っている単語でも意味がしっくりこない場合は辞書で第2義、第3義を確認しましょう。入試では単語の基本義ではなく周辺義・熟語で問われることも多いため、一語一義にとらわれない柔軟さが必要です。日頃から辞書で多義語の用法に目を通し、文脈ごとの意味の違いを意識しておきましょう。
しかし、英語辞書を引くデメリットもあります。それは、覚えるべき英単語か覚えなくていい英単語かの境界線が曖昧になってしまうことです。確かに、わからない英単語があったら辞書で調べ、すべて覚えたらいいでしょう。しかし、大学受験は時間との戦いです。本当に覚えるべきなのかは戦略的に取捨選択しなければなりません。
覚えるべき英単語と覚えなくていい英単語の境界線は『VENN4000』に掲載されているかどうかで引きます。よって、英語辞書を引くのではなく、『VENN4000』の索引で調べるのがよいでしょう。
Q. 和訳は2文に分けていいですか?
1文の英文を和訳する際、2文に分けていいか聞かれることがあります。結論、元の文章の意味が変わっていなければ問題ありません。何度もお伝えしていますが、「理解していることを伝えること」が和訳問題のポイントなのです。
ここに迷いが生じているのはなぜかというと、和訳は文章構造を崩さず、できるだけ意訳を避けてすべきという、表面的なアドバイスが蔓延っているからだと思います。それなのに、日本語訳が不自然になるときは2文に分けてよいと言われることが多く、矛盾してしまっているのです。
そもそも、英語と日本語は厳密に1対1対応するものではありません。理解していることが伝われば、別に1文を2文に分けて訳してもいいのです。
その他、適宜日本語の読点「、」や接続詞を補ってもOKです。英語ではコンマやthat等で繋がっている長文も、日本語では「~だが、…」「そして、…」のように文を分けたり接続詞を付けたりした方が伝わりやすい場合があります。英語を英語のまま理解したとき、そのようなニュアンスの英文なのであれば、このような補足は別に問題ないのです。
Q. スラッシュリーディングはすべきですか?
たまにスラッシュリーディングを推奨されることがあります。例えば、次のようにです。
「長い英文を和訳するときは、英文の構造(論理的な意味の塊)ごとに区切って訳すと分かりやすくなります。いわゆる「スラッシュ・リーディング」という手法で、関係代名詞節や分詞構文など英文を細かく分析し、「/」でスラッシュを入れる位置ごとに逐次日本語に置き換えていく方法です。例えば次のような英文を考えます。
“All clothing sold in Develyn’s Boutique is made from organic cotton.”
この文は「Develynのブティックで売られているすべての衣料品は有機綿で作られている」という意味ですが、読むときに “All clothing / sold in Develyn’s Boutique / is made from organic cotton.” と「主節 / 関係詞節 / 主節残り」というふうにスラッシュで3区切りにすると理解しやすくなります。和訳の際も同様に、まず “All clothing” を「すべての衣料品」と訳し、次に “sold in Develyn’s Boutique” を「Develynのブティックで売られている」と訳し、最後に “is made from organic cotton” を「有機コットンで作られている」と訳す、といった具合に構造に沿って順番に訳出します。こうすることで、英文の長い情報を日本語でも整理された順序で表現できます」
スラッシュリーディングの難点は、細かく区切りすぎることで文章全体の構造がわかりづらくなることです。スラッシュリーディングではなく、シンプルに「主語」「述語」を探すことのほうがもっと重要です。正直、構造解析はこれだけで十分と言っても過言ではありません。
今回は、「All clothing sold in Develyn’s Boutique」が主語で、「is made」が述語です。
これだけ見抜ければ大きく誤ることはありません。