効率的な勉強には学校との連携が不可欠
塾や学校で指導をしていると、主体であるはずの生徒が置き去りにされてしまっているという課題を感じる場合が多いです。
松濤舎では高校との連携事例を増やし、複合的な機能を持つ学校と、志望校合格をミッションとした塾とをうまく融合させた生徒にとって最も良い場作りを行っています。
学校指定教材を受験対策に活用できるか?
最初に当たる壁が「学校指定の問題集と、松濤舎の指定問題集が異なる」という課題です。
学校で使用する問題集と松濤舎で使用する問題集が同じであることが理想ですが、そうなることは稀です。
松濤舎は難関大学への進学を専門としていますが、多くの学校は平均値・中央値・最大値に合わせようとするため、全体最適をしようとすると低いレベルの問題集を指定せざるを得ないのです。
[注意]なお、松濤舎の指定問題集は公立中学できちんと勉強してきた人にとっては問題なく進められるラインナップになっています。
学校指定の市販問題集との折り合いの付け方
学校指定の問題集でも、市販されている問題集は内容やレベルを把握することができるので、指導にどう組み込んでいくか検討することはできます。
- 学校指定の問題集が、松濤舎指定の問題集に内包されている(=簡単または網羅性が低い)場合:普段の勉強では松濤舎指定の問題集を使い、定期テスト前に学校指定の問題集で対策するよう指示する。
- 学校指定の問題集が、松濤舎指定の問題集にほぼ代替でき、受験まで時間がない場合:学校指定の問題集を中心に勉強しながら、定期テストまたは模試前に松濤舎の指定問題集で補うよう指示する。
学校専売商品との付き合い方
”困ってしまう”のが、学校専売商品を学校が指定するケースです。
”困ってしまう”と表現したのは、これはあくまでも塾にとっての都合であり、生徒にとってはものによってそれが”よく働く場合”と”よくない方向に働く場合”があるからです。
この話に入る前に、そもそもなぜ学校専売商品というものがあり、それを採用している学校が多いかの理由を説明しましょう。
あまり学校専売商品によい印象がない方も多いと思いますので、ここで一度整理しておきます。
学校専売商品は「先生にとって都合が良い教材」
学校専売商品というのは、市販では流通しておらず、学校での購入専用で販売されている問題集のことです。
実は、学参系出版社にとって学校専売商品は売上の多く占めます。これは直感に反するかもしれませんね。学校専売商品が売上の多くを占める理由は、市販の問題集を売る難しさをお伝えすればわかるかもしれません。
市販の問題集は、リアルな書店での売上が大半を占めるのですが、書店自体の経営が苦しくなっているため、参考書コーナーがどんどん減ってきているというマクロな動向がまず背景にあります。
さらに、参考書は一般書と比べて(先輩や周りの)口コミの力が強く、新規参入がしづらい領域でもあります。
「参考書は定番商品がよく売れる」ことは全ての書店員さんの言うことで、「定番商品はよく売れるから露出が増え、さらに売れる」という正のスパイラルに入っています。
逆に言えば、新規商品はなかなか売れず、売れるまでは時間がかかります。時間がかかると、委託販売を行っている書店は初速が良くない問題集はすぐに返品されてしまいます。
結果、出版社ができることは「良い商品を作ること」「書店での露出面積を増やしてくれるよう営業すること」となり、売上はほぼ読者任せとなってしまうのです。
一方、学校専売商品は営業することである程度コントローラブルに販売することができ、さらに採用が決定してから必要な分だけ刷ればいいので在庫リスクがほぼありません。一度採用されると1学年分まとめて受注できますし、3年間同じシリーズを使ってもらえるため、大きな利益が確定します。
採用を決めるのが高校の先生なので、高校の先生がお客様です。よって、学校の先生の要望を聞き、反映させるほど採用されるのです。
よって、学校専売商品というのは原理的に、学校の先生にとって都合の良い教材になるのです。
解説を付けないのも、学校の先生からの要望
学校専売商品といえば「解説が付いていないもの」という印象が強いですよね。「解答を付けると生徒が授業を聞かない」「和訳や英訳を自力でやらなくなる」という先生からの意見を優先した結果なのですが、生徒のことを全く無視していると言わざるを得ません。
解答や和訳・英訳の答えがあるからこそ自学自習できます。また、わからないことがあったらすぐに解答解説を読み、新しい知識を学んだほうが効率的です。「解説を付けない学校専売商品」は、先生が授業をする意味を持たせるために行っており、目的を見失っていると思います。
きちんと解説を配り、独学できる状態にした上で先生は授業で何を提供できるのか、を考えるべきですし、そのほうが先生にとって楽になる部分も多いのではないかと思います。
解答/解説を写してズルするような子は、どんなことをしても勉強しません。
先生と生徒、両者にとって良い学校専売商品もある
では、学校専売商品はすべて悪かというと、そういうわけではありません。
学校専売商品を出している様々出版社の方から色々と見せていただいたのですが、例えば英語の教材では、全英文が文章構造を視覚化していて先生が解説しなくても良くなっていたり、解説のポイントがよくまとまっていたりと、生徒の独学を促すことによって先生の労力を減らす工夫がされている問題集もたくさんあります。
こうした学校専売商品には、先生専用のWebページを定期テストの問題を提供していたりと、先生の使い勝手を上げるシステムを合わせて提供していることもあります。
学校の先生がやらなくても良い作業を減らしてくれるような「先生にとって都合の良い教材」は、積極的に採用してよいと思います。
ただし、「生徒にとって良い教材は何か?」を考えた上で、ですが。
「学校採用中心の市販問題集」や「市販中心の学校採用問題集」には良いものも多い
実は、「原則として学校専売商品ではあるが、一部の大型書店でのみ販売していたり、出版社のHPで手に入れられる問題集」もあります。
これを「学校販売中心の市販問題集」と命名しましょう。
この手の問題集は、網羅性が高く、ステップアップしていけるようレベルが工夫されており、解説が詳しいという特徴を備えた良い問題集が多いです。
例えば、松濤舎でも使用している『Focus Gold』(新興出版社啓林館)、『エクセル』(実教出版)はいずれも、原則として学校専売商品としているため一部の大型書店の特定店舗でしか販売されていませんが、書店で解答付きのものを取り寄せることができます。
ちなみに、『エクセル』は書店で取り寄せのお願いをすると「学校専売商品なので解答解説がついてこないですがよろしいですか?」と聞かれますが、解答解説は付いてくることを出版社の方に確認しているので問題ありません。『エクセル』以外の教科書傍用問題集(『セミナー』『リードα』『センサー』など)は、書店で購入すると解答解説がついてきません。
他にも、「市販中心の学校採用問題集」というものもあります。学校採用を狙って作られたため価格が安く、網羅的で、学習指導要領にも沿っているという特徴を持っています。『英文法・語法 Vintage』(いいずな書店)や『良問問題集』(旺文社)、『Stock4500』(文栄堂)などが挙げられます。
先述の通り、学校採用を狙った問題集は価格が安く抑えられているので、お財布にも優しいです。
上記の理由から、松濤舎では「学校採用中心の市販問題集」や「市販中心の学校採用問題集」から多く指定問題集が選ばれています。
”生徒中心主義”で考えよう
まとめると「生徒中心主義で考えましょう」に尽きます。
学校は、指定問題集はすべて解説が付いているものにする(学校専売商品か市販問題集かは不問)。解答解説を取り上げるというような荒療治はやめ、独学ができる状態にした上でどう授業を組み立てるか考えてほしいなと思います。また、出版社の営業だけでなく、塾とも情報交換しながらより良い教材選びができると実戦的でいいと思います。
実際、学校の先生は忙しくて教材研究する時間が取れなかったり、出版社の営業の人と時間が合わずに情報収集することが叶わなかったりするため、第三者からの意見は大変嬉しいそうです。
出版社は、学校専売商品は市販する前提で考えられると良いと思っています。実際、「学校採用中心の市販問題集」と「市販中心の学校採用問題集」には良い問題集が多く、口コミで購入者が増えていることを現場で感じています。出版社の中の方でも「市販したらよいと考えている」という意見も多くあります。
「市販すると学校採用が減るかもしれない」ということを気にされている方もいますが、解説が出回っても良い(または出回った方がよい)ような教材に仕立てることで、学校・出版社・生徒にとって三方良しの教材が作れるのではないかと思っています。こうした企画には私自身、是非関わらせていただけたらと思っています。
塾は、学校専売商品についても把握すると良いです。実際、学校専売商品は良いものも多いですので、生徒の学校での勉強を無視して「塾が指定したものだけやりましょう」としてしまうのは、生徒中心ではありません。
松濤舎はこれからも、学校や出版社との連携を強め、より良い学習環境づくりをしていきたいと思っています。