長文対策を誤ると、膨大な時間の無駄に繋がる
長文対策に必要なのは「慣れ」「多読」という言葉だけが先行し、何を意識しながら勉強すべきかがわからない状態で多くの時間を割きがちです。結果、膨大な時間の無駄に繋がり、他教科にも大きな影響が出ているケースが多いです。
では、英語長文の効果的な対策方法とは何なのでしょうか?
結論から言うと、単語暗記、文法、構造解析、多読の4つを押さえてください。
1. 単語暗記
単語暗記がもっとも重要
まずは脇目も振らず単語暗記してください。
語彙知識と読解能力の間にはr=0.78の強い相関があると報告されています。また、語彙知識の広さと深さから読解力を説明できる割合は67%と大変高いです(出典は文末にまとめて掲載)。
これは、とにかく語彙量が多いほど読解問題で得点しやすいということを意味しています。
『システム英単語』と『単語王』でOK
まずは『システム英単語』を覚えます。そうすれば、残り3つ(文法、精読、多読)の習得に入れるようになります。
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次に『単語王』に入ります。『単語王』もカードを使うのが効率的です。
これで、東大、京大、阪大、早慶、医学部レベルの大学であっても十分な語彙が身につきます。
95%の英単語がわかるか、が分岐点
Grabe(2009)によると、語彙の難易度を学習者用に調整していない英文(注:受験用ではない)では、使用頻度の高い約10,000見出し語(4,000ワード・ファミリー)を知っていれば、英語分の約95%の語がわかるそうです。これだけの語彙を知っていれば、ギリギリ(辞書や先生の助けを借りながら)一般的な英文を読むことができます。
※ワールドファミリーとは、派生形なども含め1語と数える単位です。
▽見出し語、ワールドファミリー、カバー率の関係
見出し語 | ワールドファミリー | カバー率 |
40,000 | 9,000 | 98% |
10,000 | 4,000 | 95% |
5,000 | 3,000 | 86% |
3,400 | 2,000 | 76% |
1,700 | 1,000 | 71% |
一応、流暢に読むためには(英語の98%の語彙知識がある状態)、その4倍にあたる約40,000見出し語(9,000ワード・ファミリー)が必要だと言われています。しかし、これだけの語彙量に持っていくのは、他教科との兼ね合いを考えると効率的ではありません。
よって、まずは約10,000見出し語(4,000ワード・ファミリー)を徹底して暗記することが先決です。
では、約10,000見出し語(4,000ワード・ファミリー)を身に付けるにはどうしたらいいのでしょうか?
英検準1級以上の語彙量を身に付ける
ここで、学習指導要領に準拠している英検に目を向けてみます。
日本英語検定協会(2007)によると、英検の各級で必要とされている語数は下記となります。
- 3級(中学卒業程度) :約2,100語
- 準2級(高校中級程度):約3,600語
- 2級(高校卒業程度) :約5,100語
- 準1級(大学中級程度):約7,500語
- 1級(大学卒業程度) :約10,000〜15,000語
これらを見出し語だとすると、先ほどの表から、カバー率95%以上にするためには、準1級以上の語彙量が必要になる計算です。
『単語王』をやれば、英検準1級には十分な語彙量がつく
指導経験上、『単語王』まで覚えれば、英検準1級はまず問題ありません。
よって、約10,000見出し語(4,000ワード・ファミリー)を身につけるためには、『シス単』『単語王』の2冊で十分です。
ちなみに、語彙量が増えるほど不随意学習も促進されて語彙量が増えることが知られています。『単語王』まで覚えることによって、『シス単』『単語王』に載っていない単語の暗記も促進され、一層語彙量が増える、という正の循環に入ります。
多量の理解可能なインプットと、少量のアウトプット
英語能力を上げるのは多量な理解可能なインプットであることが科学的にわかっています。わかりやすくするために比較すると、現在の日本の英語教育は少量のルールを覚える教育です。ルールを覚えたら、あとはそのルールを基に勝手に読めるようになるという考えがベースとなっています。
しかし、実際は多量のインプットが重要で、インプットを通して正しい表現や言い回しを学んでいくのです。
ただ、インプットと言っても”理解可能な”という条件がつきます。たとえば、単語がわからなすぎて意味が読み取れないような英文を読んでも、意味がないということです。特に重要なのは語彙で、95%以上は単語の意味がわかる英文を読んでください。
単語の”文脈判断力”なんてない
「単語がわからなくても対応できるように、文脈判断力が重要」という話を聞くことがあるかもしれませんが、完全に間違えていますので惑わされないようにしてください。
文脈判断力と言えばカッコいいかもしれませんが、要はただの推測です。鍛えるようなものではなく、人間なら誰でも勝手にできるものです。
もちろん、入試本番ですべての単語がわかるとは限りません。というより、文章中に1−2%の単語がわからない可能性の方が高いです。しかし、そもそも、そんなレアな単語まで覚えるのは他教科への影響を考えるとコスパが悪いと言わざるを得ないので、やる必要はありません。
文脈判断力などといった漠然としたものに頼って手遅れにならないようにしましょう。単語暗記は単純暗記なので習得に時間がかかりますので。
「◯◯力」という言葉に惑わされず、どんな知識があったら解決できるのかを考え暗記するようにしましょう。アンコントローラブルなものに頼り、取り返しがつかない状態にならないよう注意が必要です。
2. 文法
なんとなく読んでいる人は多い
英検2級であれば、文法が頭に入っていなくても突破できます。
しかし、文法がなければ、当然ながら複雑な文章は読み取れませんし、覚えれば得点できる文法問題での失点にも繋がります。
受験は周りが得点できる問題で失点しないのが鉄則ですので、文法は当然のようにして暗記してください。長文問題の中に文法知識を問う問題が入っているケースも多いです。
『英文法・語法 Vintage』を使い、文法・語法問題が網羅的にできるようにしておいてください。
3. 構造解析
和訳問題としては出題されない文章でも、複雑な文章構造になっているものも多いです。単語は覚えても文章の意味が読み取れないのは、文法知識をベースとした精読の練習ができていないからです。文の5文型を明確にすることが精読の基本であり、その力を『英文解釈の技術100』で身につけましょう。
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和訳対策として
読解問題には、和訳問題が含まれていることが一般です。おおよそ読解問題の得点の20%が和訳問題です。
4. 多読
効果的な多読には2つのステップを踏む必要があります。何も考えずにただ多読するのは、大幅な時間のロスに繋がるリスクがあるので注意してください。
ステップ1:長文の読み方を学ぶ
長文は、以下のような方法で読んでいく必要があります。
・文章の骨子であるSVを探しながら読む。複雑な文章ではSVOCを見抜く
・意味のかたまりごとに、左から右へ読み下す
よって、長文問題集は「文章にSVOCを振り構造解析してあるもの」「意味のかたまりごとに分けられ和訳がついているもの」を使用する必要があります。
ステップ2:音読する
音読は長文読解における解析(文字面を見て心の中の音に変える)プロセスを自動化するのに寄与します。よって、基本的には音読し「単語を見て、その発音や意味が自動的に取り出せる状態」にするトレーニングを積む必要があります。
意味を知っている長文でもいい
理解可能な英文を多読すべきという話をしましたが、意味がわかっていると言えば、すでに全訳がわかっている長文を読んでも良いです。
少なくともその長文に載っている単語、文法、構文を知識として身につけることができますし、英文読解の高度な認知処理をスムーズに行えるようにするための橋渡しになるからです。
500語以上の長文を読むべき
国公立大学の読解問題の語数は、400語以下が約21.5%、401〜600語が35.5%、601語以上が43.0%となっています。志望校の過去問を見て確認するのがよいですが、志望校が決まっていないのであれば500語以上の長文を読むようにしましょう。
トピックに関しては、大学によっては学部に関係する内容が出題される傾向にあります。過去問研究し、特定のトピックからの出題が多いようであれば該当トピックの英文を読んでおくとよいでしょう。背景知識があると長文は読みやすいです。
その他:メタ知識
上記4つに加えて、読解問題というもの自体に関する知識もあるとベターです(マストではありません)。読解問題に関する知識があれば、一歩引いた姿勢で問題に取り組むことができますし、学習効率も高まります。
また、長文を読んでいて難しいと感じても、その原因を才能に起因せず、知識不足や長文の性質、設問の作りが原因だといった生産性な振り返りに繋がります。
他の4つより優先順位は下がりますが、折に触れて復習すると気づきも多いはずです。
難易度を決める3つのファクター
読解問題の難易度を決めるファクターには、
- 難語数
- 文章の長さ
- 質問(選択肢)の難しさ
があると言われています。前者2つは大丈夫ですよね。おさらいになりますが、『シス単』『単語王』を覚え、500語以上の理解可能な’英文を多読したらよいのです。
最後の質問(選択肢)の難しさについても知っておくとよいでしょう。
実は、もっともらしい誤答の選択肢(錯乱肢 distractor)の作り方があり、次の3つを踏まえるとよいことが知られています。
- 英文で使用されている表現を使用する
- 問題に解答する際に必要なキーワードの近くにある表現を錯乱肢にする
- テーマを問う質問であれば、あまり詳細な情報を選択肢に含めない
このような選択肢に引っかかった経験は、一度や二度ではないでしょう。ちなみに、選択肢の数3つでも4つでも難易度は変わらず、もっともらしい錯乱肢は2つ作れば十分であることが知られています。
解答が明示的かつ局所的だと、問題は簡単になる
解答の明示性と、情報統合の必要性によっても難易度が変わります。
解答が文章中に明示的に示されており、下線部の近くに存在する場合は正答率が上がります。一方、文章全体に散在した情報を統合しなければ答えられない問題では、正答率が下がります。
スピードテストとパワーテストで、読み方が異なる
読解テストは、スピードテストとパワーテストの2つに分類されます。
スピードテストとは、TOEICのように制限時間が短く、時間内にできるだけ多くの問題を正しく答えることが求められるテストのことです。スキャニングやスキミングといったスキルが身に付ける必要があります。
※スキャニングとは必要な情報だけを素早く読み取ることで、電車の時刻表の読み取りなどがあります。スキミングは英文の大意を素早く掴むことを指します。
一方、パワーテストとは、センター試験のように制限時間が比較的長く、1つ1つの問題にかけられる時間が長いテストのことです。新聞を熟読する、ホームページに書いてある内容を読み取るなど、内容の読み取りを重視したテストです。
パワーテストでは、主題の正確な理解、事実と意見との区別、文/節の文法構造の理解、語彙/文法の結束性の理解、文脈での語彙理解などが求められます。
展開が推測しにくい文章が出題されると心得る
一般に、物語文でも論説文でも、原因となる出来事とその結果として生じた出来事の関係がどれくらい推論しやすいかが、読解の難しさに影響を与えるとされています。展開が意外なほど内容理解が困難になるということです。
例えば、第一文から「He」や「She」などの代名詞を使って推論させる頻度が多い文章を扱うことで、出題者は難易度を上げてくるのです。推測させる文章ほど難易度が上がるということも覚えておき、意識してそういった文章を読んでおくと良いでしょう。
推論の種類
推論にはいくつか種類があります。これらも知識として知っておくと、推測に対して漠然とした苦手意識を抱かなくなります。
- 照応関係:テキスト中の代名詞や指示表現が、文章に既出のどの先行詞を指すのか推測する
- 格意味役割付与:動作を行った人、相手、対象、場所など、文法上の格を見分けることにより推測する
- 因果的先行詞:現在の行動や出来事、状態と、それ以前に書かれている文章の前後関係から因果関係を理解し、テキスト中の出来事の結果を予測する
- 上位ゴール:テキストの中で行為者の中心となる行動の動機を推測する
- 主題:文章全体の主要な点あるいは教訓を推測する
- 登場人物の感情的反応:出来事や行動によって引き起こされる、登場人物が経験する感情を推測する
- 因果的結末:テキスト中のある行為や出来事、計画がどうなるのか結末を推測する
- 名詞カテゴリの例示:テキスト中のある特定の名詞(句)から、その名詞に関連する事柄を連想する
- 道具:ある特定の動作に用いられたであろう身体の一部や道具、手段を推測する
- 下位ゴール/行為:行為者の周辺的な行動がどのように達成されるか、あるいはその行動の目的を推測する
- 状態:テキスト中の場面や登場人物の状況などを思い浮かべて推測する
- 読み手の感情:テキスト中のある行為や出来事によって引き起こされる感情を推測する
文章構造に関する知識を持ち、推測しやすくする
文章構造に関する背景知識がリーディングに役立つことがあります。例えば、英文の段落構造の多くは次の3つになっています。
- 主題文⇒詳細情報
- 詳細情報⇒主題文
- 導入⇒主題文⇒詳細情報
主題(文章全体の主要な点あるいは教訓)を掴むことは読解問題で重要となってきますので、最初の段落、導入の次の段落、最後の段落に注目しまずは主題が何かを掴むようにしましょう。
そして、他の段落を読むときは主題との関係性を意識しながら読むと、論旨を明確に掴めるケースが多いです。
まとめ:問題集の習得⇒多読⇒メタ知識の暗記
まとめると、まずは指定問題集をひと通り終わらせることから始めましょう。長文読解には総合的な知識が必要であり、知識の土台がなければすぐに頭打ちしてしまうので注意しましょう。
その後、理解可能な多量のインプットをするために、適切な長文(500語以上で単語の意味が95%以上わかるもの、あるいは全訳を読んだ後の英文)を読みます。受験生であれば1日1題は読むようにしてください。
インプットを通し、メタ知識も身につけられるとベターです(マストではありません)。選択肢を考察してみたり、求められている能力が何だったのか考えてみたり、設問の作られ方やその難度を考えてみたりするなど、より引いた姿勢で長文問題に取り組むことができるようになると、安定した点数に繋がります。
パラグラフリーディング・ディスコースマーカーは?
パラグラフリーディングやディスコースマーカーを使った問題集がありますが、これまでの使用経験、指導経験上、実用的な知識ではないというのが正直なところです。
その理由の1つは、論理展開のパターンや、接続詞のルールに沿わない問題がたくさんあること。実用的ではないことに合わせ、アテにしているのにそうでなかったときのダメージが大きいです。
現代文もそうですが、文章全体の構造(対比構造など)といったメタな知識は、本番ではなかなか使えないというのもあります。目の前の文章を読むことに必死で、俯瞰して読めないことのほうが多いです。
正しい読み方が身につき、多読して本当の実力がついて文章全体を引いて見られるようになってから役に立つ知識です。つまり、単語や文法、構造解析ができていない状態で、パラグラフリーディングやディスコースマーカーに頼った長文の読み方をしても成績は伸びません。
そもそも、多読を通して長文読解力がつけば、パラグラフリーディングやディスコースマーカーを使った読み方は自然とできるようになります。パラグラフリーディングは、文章を段落ごとに書いてある内容を掴んでいく(メモを残していく)、ディスコースマーカーは接続詞を大事にしながら読んでいく、といった読み方なので、特別視すべきものでもありません。
長文対策は大量の理解可能なインプットと少量のアウトプットが重要です。パラグラフリーディングやディスコースマーカーのような数少ないルールさえ知っていればどんな長文でも読めるようになるというわけではないことは、最後に付け加えておきます。
参考図書
研究社
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