
文系から医学部合格は可能?その答えと背景
「医学部受験が文系にとって不利」と言われる3つの理由
医学部受験が文系にとって不利とされる主な理由は、大きく3つあります。
1つ目の理由:文系コースでは数学IIICを履修しないため
高校の文系クラスでは数学ⅠA・ⅡBまでしか扱わないのが一般的で、医学部入試で頻出の数学III(微分積分や複素数平面など)や数学C(複素数平面や二次曲線)を学校で学ぶ機会がありません。しかも、数III・Cは医学部受験において頻出で、合否を分ける問題になることも多々あります。これらの科目を、文系は独学でゼロから習得しなければならないハンディがあります。
2つ目の理由:理科科目の学習範囲と深さが大きく異なるため
文系クラスの理科は「基礎科目(物理基礎・化学基礎・生物基礎)」までで、医学部受験で問われるような発展科目には踏み込まないのが通常です。例えば、有機化学の詳細や力学の応用問題など、理系コースなら高校で扱う範囲も文系コースでは未習のままになります。このギャップを埋めるには、大学受験レベルの理科2科目を独学で勉強し直す必要があります。
3つ目の理由:理系コースとの圧倒的な学習時間の差
理系クラスでは、数IIICや物理・化学などに多くの授業時間が割かれますが、文系の場合は医学部受験で使わない社会科目の勉強を定期テストで赤点を取らないために勉強しつつ、さらに数IIICや理科の発展科目の勉強をしなければなりません。
以上のように、「必要科目を履修していない」「専門知識が不足している」「学習時間のハンデが大きい」ことが、医学部受験が文系にとって不利とされる主要因です。
文系出身者でも医学部を目指せる理由と強み
文系が医学部受験をするには様々な困難がありますが、医学部受験で活かせる強みもいくつかあります。
第一に、文系科目が得意であることは大きなアドバンテージになります。国公立医学部では共通テストで英語・国語・社会が必須ですし、多くの私立医学部で小論文試験が課されます。文系生で英語や国語、社会が得意であれば、これらにかける時間を最小限にできるのは大きなアドバンテージでしょう。特に、英語は医学部受験において最も重要な科目ですし、国語は共通テストでもっとも点差がつきやすい科目ともいえます。例えば、理系生であれば共通テストの国語で140点取れれば及第点といえますが、文系生で国語が得意で180点取れたとしたら、国語だけで40点もアドバンテージになります。社会も、理系生にとって悩みの種になりがちですが、その点をクリアしているのであれば勉強時間的に非常に有利です。小論文でも日頃から論理的な文章を書く訓練を積んでいる文系生は有利と言えるでしょう。
第二に、医師の仕事自体に文系的素養が求められる点です。患者さんの訴えを丁寧に聞き取るヒアリング力、心情を汲み最適な治療法を提案するコミュニケーション能力など、優れた臨床医になるには理系知識だけでなく人文社会的なスキルが不可欠です。文系で培った読解力・対話力・人間理解力は、将来医師として患者と向き合う際に大いに役立ちます。この点が、推薦や再受験時に評価されます。
このように、数IIICや理科の発展科目を独学しないといけなかったり、医学部受験に必要のない社会科目の勉強に時間が取られる点が不利である一方、共通テストの文系科目で一定のアドバンテージがあるといえます。
文系生が数IIIC、理科の発展科目を独学で学ぶ方法
文系生が数IIICや理科の発展科目を独学する際、いきなり参考書などのテキスト教材を使うのは非常にハードルが高いですし、かえって非効率です。
松濤舎では演習中心の学習を推奨していますが、あくまでも学校の授業などでひと通り講義を聴いている前提です。
そのため何かしらの講義をまずはざっと聞いた方がいいのですが、今はYoutubeでも網羅的に講義してくれている動画は多数アップされています。教科書的説明をひと通りしてくれる動画で十分ですので、まずはひと通り目を通してみてください。
その上で問題集を解いて理解を深めていくほかありませんので、動画には時間を使いすぎず、全体像を掴んだら演習に入るようにしましょう。理系でも、ほとんどの学校の先生の説明は普通〜ちょっとわかりやすいくらいのレベルです。講義の質やレベルの時点で差がつくことはほぼありません。
差がつくのは、参考書や問題集の質、その使い方の質なのです。
文系から医学部を目指す主なルート
医学部受験には、一般的な学力試験による選抜(=一般選抜)以外にも複数のルートがあります。それぞれの特徴を理解し、自分に合った道を検討することが重要です。ここでは、文系出身者が医学部合格を目指す際に取り得る主なルートを紹介します。
医学部入試制度と多様な選択肢
一般選抜(現役・浪人)で挑戦する
最もオーソドックスなルートは一般選抜です。現役高校生はもちろん、浪人(既卒)生も含め、多くの受験生がこの一般選抜で医学部合格を目指します。国公立医学部の場合は共通テスト(6教科8科目)+二次試験(英語・数学・理科2科目の計4科目)が基本で、私立医学部の場合は大学ごとの個別試験(一般に英語・数学・理科2科目)となります。
文系から医学部を受験する場合、現役時点で理系科目が不足しがちなため、一度浪人してじっくり対策するケースも多いです。実際、医学部全体では現役合格者は約3割で、残りの多くは一浪以上の再受験生が占めています。一般選抜が募集定員の大半(およそ70%前後)を占める王道ルートです。したがって文系出身者でも、この一般選抜で合格ラインに達する学力を身につけることが、最も多くの医学部への扉が開かれると言えます。
一般選抜で鍵を握るのは、不足する数学・理科の実力をどこまで底上げできるかと言えるでしょう。文系クラス出身者は前述の通り数学IIIや理科の履修範囲が限られるため、浪人時代にそれらを重点的に学習する必要があります。例えば国公立志望であれば、高3卒業までに数学III・物理・化学の講義をひと通り聴講し、浪人時に本格的な演習に取り組む、といった計画が考えられます。
学校推薦型選抜・総合型選抜(旧AO入試)を活用する
学校推薦型選抜や総合型選抜(旧AO入試)も、文系から医学部を目指す際に検討したいルートです。学校推薦型選抜には大きく分けて、指定校推薦、公募制推薦、地域枠推薦などがあり、大学ごとに募集枠や要件が異なります。
例えば、指定校推薦は大学指定の高校出身者のみ応募可、公募推薦は評定平均や課外活動実績など一定条件を満たせば誰でも出願可(ただし、校内選考を突破する必要があったり、多くの医学部で評定4.3以上が必須などの条件あり)といった違いがあります。学校推薦型選抜はその名の通り学校長の推薦が必要で、文系生でも医学部に出願できるかは各大学の募集要項を確認する必要があります。
総合型選抜(旧AO入試)は、学校長の推薦がいらない選抜方法で、学力試験に加えて志望理由書や面接・小論文などで多面的に評価する制度となっており、近年医学部でも導入する大学が増えていると言われますが、医学部受験ではまだまだマイナーな選抜方法となっています。また、文系生でも総合型選抜が受験できるかは、各大学の募集要項をしっかり確認するようにしましょう。
学校推薦型選抜や総合型選抜のメリットは、募集枠が限定的で志願者数も少ないため、倍率が比較的低めな点にあります。実際、ある私立医学部では一般入試の倍率が約50倍なのに対し、推薦入試では4~12倍程度だったケースも報告されています。このように表面上の競争率は低いものの、注意すべきは応募条件や試験内容です。多くの大学で「評定平均4.3以上」「現役または一浪まで」など厳しい出願条件が課されます。総合型選抜でも、基礎学力試験(大学によっては共通テスト利用)が課されるケースがあり、決して学力不要の“裏口”ではないことに留意が必要です。
以上より、学校推薦型選抜・総合型選抜を利用する場合も、一般選抜と同等、あるいはプラスアルファの対策が必要になります。その上で、評定や志望理由書・面接対策など学力以外の要素も磨いておくことが合格へのポイントです。
大学在学中に他学部から医学部へ転部する
今いる大学に医学部が設置されている場合、在学したまま医学部に転部(内部編入)する道も考えられます。例えば地方国立大学などで、ごく少数ですが2年次進級時に他学部から医学部への転部試験を行う例があります。ただし、全ての大学で転部制度があるわけではなく、文系学部から医学部への転部を認めていない大学も多いのが実情です。仮に試験があっても、募集人員は1~数名程度と狭き門で、学内選考の難易度も非常に高い傾向にあります。一般入試との難易度比較は一概に言えませんが、「転部試験の方がかえって難しい」とも言えるでしょう。したがって、在学大学でチャンスがある場合でも、事前に募集要項を入念に確認し、難易度や準備期間を踏まえて決断することが重要です。転部試験では学科試験のほか面接が課されることも多く、内部進学ならではの対策(大学の教授陣が面接官になる等)も必要になります。
内部編入を狙って大学に入学することは原則としてお勧めしません。
大学卒業後に学士編入で医学部へ入る
一度、別の大学を卒業してから医学部へ学士編入するルートもあります。学士編入とは、学士(大学卒業資格)を持つ人を対象にした医学部への特別選抜で、合格すれば2年次または3年次から医学科に編入できる制度です。国公立大学を中心に毎年十数校程度で学士編入試験が実施されており、社会人経験者や他分野の学位取得者にも門戸が開かれています。文系学部出身でも学士編入試験に合格することは可能であり、松濤舎でも私立文系出身者が国公立医学部に編入試験で合格した例を多数知っています。
学士編入試験の内容は大学ごとに異なりますが、一般に生命科学や英語、小論文・面接などが課される傾向があります。一般的な英語・数学・理科の試験を課す大学もあれば、理系の深い専門知識よりも大学卒業までの教養と論理的思考、研究適性などが重視されるケースもあります。いずれも、募集人数が少ないため競争率は非常に高く、旧帝大医学部では倍率20~30倍超も珍しくありません。さらに、全ての医学部に学士編入枠があるわけではなく、年度によって募集を停止する大学もあります。そのため、このルートを目指す場合は希望大学の情報を早めに集め、必要とされる科目(生命科学の基礎知識など)の勉強を計画的に進めることが大切です。一般入試と比べて問われる能力の方向性がやや異なるため、可能であれば編入試験対策に特化した予備校や対策講座を利用するのも有効でしょう。
社会人・既卒から医学部を再受験する
大学卒業後や社会人を経てから医学部再受験に挑む文系出身者も少なくありません。実際、60代からでも一般入試で合格し医師に転身する例が多数あります。社会人から医学部を目指す場合、次の2つのルートがあります。一つは上述の学士編入に合格する道、もう一つは社会人向けの特別入試枠や一般入試に再挑戦する道です。
いくつかの大学では、「地域医療枠の社会人特別選抜」や「社会人経験者対象のAO入試」などを設けている場合があります。これらでは、試験科目が英語・理科1科目のみだったり、小論文・面接と書類審査で総合評価したりと、学科試験の負担が一般入試より軽い傾向があります。加えて、医療現場での勤務経験や他分野での社会人経験が評価材料になるケースもあります。しかし、社会人からの再受験は経済的・時間的なハードルも高い点に注意が必要です。仕事を続けながら勉強時間を確保するのは容易ではなく、受験専念のため退職すれば収入が途絶えます。加えて学費負担(私立医学部だと6年で数千万円)も現役合格時より年齢分だけ重くのしかかります。したがって、社会人受験を決断する際は長期的な計画と周囲の協力、強い覚悟が求められます。
それでも「やはり医師になりたい」という強い思いがあるなら、年齢や現在の職を理由に諦める必要はありません。ポイントは、自分に可能な勉強時間とそれを踏まえたスケジュールを定め、長く維持することです。社会人として培った経験やスキル(タイムマネジメント能力や計画的に物事を進めていく能力など)は、医学部受験にも必ず活きます。
文系でも合格しやすい医学部はある? 受験校選びのポイント
「どうしても理系科目が苦手…それでも合格しやすい医学部はないだろうか?」と考える文系受験生もいるでしょう。絶対的に易しい医学部は存在しませんが、入試科目や配点の違いによって文系出身者が相対的に戦いやすい医学部はあります。ここでは、受験校選びのポイントとして「数学不要・理科1科目で受験できる医学部」「理系科目の配点比率が低い大学」「共通テスト利用や地域枠推薦の活用」「海外の医学部に進学する選択肢」の4点を紹介します。
数学不要・理科1科目で受験できる医学部
大学によっては、入試で数学を課さなかったり理科1科目で受験できたりする医学部もあります。これは文系出身者にとって大きなチャンスです。例えば、私立医学部の帝京大学医学部では、英語が必須科目ですが、その他は「数学(ⅠA・ⅡB)・化学・物理・生物・国語」から任意の2科目を選択できます。数学は範囲がⅡBまでで良く、科目数も少ないため負担が軽い試験方式です。また東海大学や兵庫医科大学の医学部では、理科は1科目だけで受験可能という特徴があります。このような「数学なし」「理科一科のみ」で受験できる大学は、文系から医学部を目指す人にとって有力な志望校候補となるでしょう。
国公立大学にも、二次試験で理系科目を課さないケースがあります。たとえば弘前大学医学部や旭川医科大学では、二次試験が英語と数学のみで理科が含まれていません(ただし共通テストでは理科2科目が必要)。こうした大学では理科二次対策の負担が減る分、英語・数学に集中して対策できるメリットがあります。ただし注意点として、試験科目が少ない大学は、その2科目が得意な受験生が受けにくるということの裏返しでもあります。科目負担が軽い=難易度が低い、とは一概には言えない点を心得ておきましょう。
理系科目の配点が低い/試験科目が少ない大学
医学部の中には、試験科目こそ一般的でも、配点配分に特徴がある大学があります。特に文系出身者に有利なのは、英語の配点を高くする一方で、数学・理科の配点比率を低めに設定している大学です。具体例として、英語の配点が高い大学には新潟大学、横浜市立大学、順天堂大学、国際医療福祉大学などが挙げられます。逆に、数学の配点が低い大学として広島大学医学部(A方式)、大分大学医学部、東京医科大学、順天堂大学(再掲)など、理科の配点が低い大学として北海道大学、東北大学、藤田医科大学、産業医科大学などがあります。配点が傾斜している大学では、自分の得意不得意に応じて有利な戦略を立てやすくなります。たとえば、英語が得意なら英語重視の大学を狙うことで合格可能性が上がります。
ただし、苦手科目を低配点でカバーできる反面、得意科目で確実に点を稼がないと合格ラインに届かないという側面もあります。また、得意科目がその年だけ極端に難化したり易化した場合、差がつかなくなってしまうというリスクもあります。原則は「全科目で合格者平均偏差値以上」を目指す学習計画にしながら、最終的な出願先は(対策時間や受験費用に限りがあるので)、自分の強みを最大限発揮できる大学を選ぶことがポイントです。
共通テスト利用や地域枠推薦の活用
大学入学共通テストの成績を利用する入試枠を活用するのも戦略の一つです。私立医学部には共通テスト利用入試を実施している大学がいくつかあり、共通テストの高得点を武器に合格を狙うことも可能です。例えば、共通テストの成績提出のみで一次合格を判定し、二次試験で面接や小論文のみ課すような方式もあります(大学により形式は様々)。文系科目で高得点を取れる受験生にとっては、共通テスト利用入試で得意科目の点数を武器にできるメリットがあります。
例えば、国語は大きく点差をつけることができる科目ですし、英語も難化した年であれば実力がある人と実力がない人の差が大きく開くことがあります。また、世界史は理系生はあまり選択しませんが、もし世界史が易化した場合は文系生が非常に有利になるとも言えます。
ただし、共通テスト利用枠は募集人員が少なく、ボーダー得点率も高い(9割近く要求されることも)ため、文系科目で満点近くを取る一方で、理系科目も一定の点数を落とさない必要があります。共通テストでの“逃げ切り”戦略は有効ですが、その場合でも理系科目を捨てるわけにはいかない点に注意しましょう。
次に地域枠推薦の活用です。地域枠(地域医療枠)とは、卒業後に一定期間指定地域で勤務することを条件に、自治体等の支援や定員枠を設けている制度です。多くは現役生または一浪まで、出身地域の高校生など応募条件がありますが、該当する場合は一般枠より低い競争率・合格ラインで合格できる大学もあります。実際、「一般枠では合格最低点に届かなかったが地域枠なら合格できた」というケースもあります。地域枠は国の医師不足対策で各大学に設けられている経緯があり、一定数の学生を確保する必要があるため、志願者が少ない大学では合格しやすい傾向があるのです。さらに自治医科大学など学費が全額免除になる代わりに地方勤務義務を課す大学もあり、経済的メリットも大きいです。
文系出身者にとって地域枠推薦の利点は、募集人数が少ない反面ライバルも少ないことと、小論文・面接重視で人間性や志望動機をアピールできる点です。面接では社会人経験や多様なバックグラウンドが評価されることもあり、理系一直線の現役生より豊富な経験を持つ再受験生が有利な場合もあります。ただし、地域枠には現役生しか出願できない、出身県に制限がある等の条件もあるため、利用を検討する際は各大学の募集要項を必ず確認してください。いずれにせよ、自分の状況に合致する地域枠があるなら積極的に挑戦する価値があります。条件に縛られず全国の医学部を狙える一般入試と併願し、合格可能性を最大限に高めましょう。
海外の医学部に進学するという選択肢
国内の医学部受験にこだわらず、海外の医学部に進学する道もあります。近年、東欧やアジアの大学など日本人が比較的入りやすい海外医学部への留学も注目されています。英語圏や一部ヨーロッパの大学では英語で医学教育を受けられるコースもあり、日本の医学部ほど入試が厳しくないケースもあります。学費面でも、例えばハンガリーやチェコの国立大学医学部は私立医科大学より安価な場合があり、「日本の国立に届かなければ海外医学部へ」という選択をする受験生もいます。
しかし、海外医学部進学には多くの課題やリスクが伴います。
まず言語の壁です。たとえ英語で授業を受けられる大学でも、医学の専門用語や現地での患者との対話まで含め高度な語学力が要求されます。日常会話レベルでは全く不十分で、解剖学や生理学を現地語で学びディスカッションするだけの語学力を身につける必要があります。日本の医学部より進級や合格が非常に厳しいというのも一般的な傾向としてあります。
最大のハードルが日本の医師免許取得の問題です。海外の医学部を卒業して医師になる場合、日本で医師になるには厚生労働省による個別審査を経て日本の医師国家試験受験資格を得る必要があります。すべての外国医学部が自動的に認められるわけではなく、世界医学校名簿に載っていない大学の場合は特にハードルが高いとされています。仮に受験資格を得ても、日本の国家試験に合わせて追加の勉強をする必要が出ることもあります。晴れて日本の医師国家試験に合格しても、卒後研修(初期研修)へのマッチングや専門医取得の過程で不利になる可能性も指摘されています。
以上を踏まえると、「海外の医学部に行けば日本より楽に医者になれる」という安易なものでは決してありません。どうしても国内で医学部に入れなかった場合の最後の手段ではありますが、帰国後に日本で医師として働きたい場合は慎重な判断が必要です。海外でそのまま医師としてキャリアを積む覚悟があるなら一つの選択肢になりますが、日本で医師免許を取り医療に貢献したいのであれば、できる限り国内受験で道を切り拓く方が確実でしょう。
文系から医学部合格を目指す人への勉強アドバイス
最後に、文系出身者が医学部合格を勝ち取るための具体的な勉強法や心構えについてアドバイスします。数学・理科対策から得意科目の活かし方、環境選びやモチベーション維持まで、ポイントを整理していきます。
苦手な数学・理科を克服する勉強法
文系出身者にとって最大の課題は、数学・理科の克服です。これら苦手科目に対しては、以下のような段階的アプローチがおすすめです。
講義を聴く
まずはYoutubeの無料動画でもいいですし、スタサプやN予備校などの有料(月額1,000円程度)の講義をひと通り受講しましょう。これは予備校的なテクニカルな講義を講義を聴いて欲しいという意味ではなく、全体像を掴むために一度受け身の授業を聴いてほしいということです。
演習量を確保する
理系科目は問題演習を通じて効率的に知識習得ができます。「医学部入試の数学は解くべき問題は約700問」と松濤舎では言っていますが、計算問題や基本問題、典型問題を網羅的にできるようになっておくことが合格への近道であり、医学部受験そのものなのです。教科書傍用問題集を中心に、解けない問題は何度も復習して、瞬時に解ける状態に持っていくのです。
学習計画を立ててくれ、質問できる環境を作る
医学部受験に特化し、かつ自分の現状を踏まえた最適な学習計画を立てることが真っ先に必要となります。ここがもっとも重要であると考えているため、松濤舎のような専門塾に依頼した方がまず間違いありません。
同時に、わからない箇所を質問できる環境を用意しましょう。特に文系出身者の場合、数学IIIや物理の深い内容は一人で悩むより、専門の指導者に早く教わった方が効率的です。医学部受験に特化した予備校や個別指導では、必要なポイントを的確に教えてくれるノウハウがあります。可能であれば積極的にそうしたプロの力も借りて、短期間で弱点克服を図りましょう。
理科の科目選択に工夫する
文系・理系に関係なく、医学部受験生には生物選択を強く推奨しています。なぜなら、生物が原因で落ちることはほぼありませんが、物理が原因で落ちることはよくあるからです。基本的な知識だけを暗記すれば合格点に達するのが生物のいいところです。物理はどれだけやってもできない人はできませんし、どこまでやったらいいかの上限が見えにくい科目でもあります。
「物理選択でないと受験できない医学部がある」という人もいますが、そのような大学を除いてもいくらでも医学部はあります。特定の大学に絶対に入りたい、それ以外の医学部に進学するくらいなら他学部に進学する、といった極端な思想を持っていない限り、医学部合格を最優先とするなら生物選択を推奨します。
得意科目(英語・国語・社会)で確実に点を稼ぐ戦略
文系出身者にとって、英語・国語・社会が出来ることは非常に有利です。ただし、これらをただ伸ばすというのは戦略的にナンセンスです。結局、大学受験は医学部受験も含め総合点で合否が決まるので、これらの科目を伸ばすという発想より、これらの科目が得意な分、他の科目に時間を回せると考えるべきです。
前提として、全科目で医学部の合格者平均偏差値や、共通テストなら合格者平均点を超えることを目標として医学部受験は進めるべきです。これが狙って合格するための定石です。特定の教科だけ伸ばして不得意科目をカバーするというのは最終手段であって、最初からそこに頼るのはギャンブルと言えるでしょう。
二次試験で英語の配点が高い大学や小論文重視の大学を狙うのも一つの手です。自分が得意な科目・形式で勝負できる試験であれば合格可能性は上がります。実際、数学や理科と比べて相対的に英語が得意な生徒ほど、国際医療福祉大学には合格しやすい傾向が松濤舎の生徒でもあります。
繰り返しになりますが、自分の得点源となる科目で確実に点を稼ぎ、苦手科目の不足分を補うことを戦略の核とするのは非常リスクです。松濤舎のような医学部専門塾には、合格者の平均偏差値や合格者の共通テスト平均点などのデータが揃っています。こうしたデータを元に、定量的かつエビデンスベイスドに勉強を進めていかないと、なんとなくの感覚で受験して合格するほど医学部受験は文系生にはやさしくないと思っていてください。
自分に合った環境選びとモチベーション維持
文系から医学部合格を目指す道のりは長く険しいですが、適切な学習環境と強いモチベーションがあれば乗り越えられます。最後に、環境選びのポイントとモチベーション維持のコツについて述べます。
まず、学習環境については、医学部受検に詳しく、合格実績が多数ある専門塾に、戦略や学習計画を立ててもらい、自身の現状や出願意向に沿った最適なプランを作ることから始めます。次に、いつでもわからないことがあったら相談に乗ってもらえたり、適切なアドバイスがくれる環境に身を置きましょう。ただ授業をするだけのような塾に身を置いても、問題演習をする過程で知識をインプットしていかなければ、いくらでも時間は溶けていきます。特に文系生は「医学部受検に特化した授業を聴いたり、講義をとらないと医学部には合格できない」と考えてしまうのではないかと思いますが、そもそも医学部合格するような理系生の大半がそのような講義を受けずに合格しているという現実を知りましょう。
理想の状態は「不安なく、目の前の課題に没頭している状態」です。信頼できる塾に、信頼できる課題を出してもらい、それをもとに目の前の勉強に没頭できていれば、それ以上に効率的に成績を伸ばす方法はありません。
勉強場所に関しては、文系生も理系生も関係ありません。自宅や自習室、図書館など集中できる場所を確保し、淡々と継続していくのみです。
次にモチベーション維持についてです。特に文系生の医学部受験は長丁場になる傾向があるため、息長く淡々と続けていくことが不可欠です。目標設定も重要ですが、何よりも大事なのが「今、何をどれくらい、どのようにすべきか」が明確になっていることです。ここに迷ったり、疑ったりすると、情報収集に無駄な時間を使ってしまったり、目の前の課題に集中できず、学習効率が下がります。
また、何をするかと同じくらい重要なのが、どんな状態になっていたらOKなのかという状態ゴールです。例えば、「医学部受験生なら、⚪︎月の模試で偏差値⚪︎を取っていいるべき。そのためには、この問題集がこういう状態になっていたらいい」といったものです。状態ゴールが明確になっていれば、手段は多少非効率でも問題ありません。勉強時間でカバーしたらいいからです。問題なのは、目指すべき状態ゴールがわかっていないまま勉強を進め、結局合格に近づいていないといった事態に陥ることです。例えば、塾に言われた通りに講義動画を購入したり、短期講座を受講したが、結局「どれだけ講義を受講したか」が成績を決めるわけではないので、全く成績が伸びておらず、時間もお金も無駄にしたという話はよく聞きます。このような状況にならないよう、状態ゴールを知り、設定することが、モチベーションという観点からも、合格に最短で近づくためにも、必要なのです。
また、仲間や家族の支えも心の支えになります。同じ医学部を目指す仲間がいれば情報交換や励まし合いができますし、辛い時に愚痴を言い合える友人は貴重です。家族にも理解と協力を求めましょう。経済的・精神的サポートを受けていることを実感できれば、「応援してくれる人のためにも頑張ろう」という原動力になります。
最後に、適度なリフレッシュも忘れずに。長時間勉強するときは適宜休憩を入れるとかえって効果的です。特にウォーキングなどの軽い運動は非常に有効です。心身の健康を維持することが受験生活を乗り切る前提条件です。逆に、SNSやゲーム、動画視聴などは粘着性が高く、大きなマイナスの影響を及ぼすので、受験期は必ず距離を置きましょう。
まとめ~文系だからとあきらめずに医師への道をめざそう
「文系から医学部へ進学」というのは一見ハードルが高く感じられます。確かに、その側面は否めないというところから出発しなければなりませんが、本記事で述べてきたように、そのハンデは戦略的に克服可能であることも事実です。実際に文系出身・再受験で医学部に合格し、医師として活躍している方々は少なくありません。文系だからと最初から夢を閉ざす必要は全くないのです。
重要なのは、「医師になりたい」という志を強く持ち、それを支えるだけの合理的な戦略と、淡々と努力を積み重ねることです。どうしたら合格するかは明確に定められています。あとはそこから逆算して、その合格ラインを越えるべく、計画的に前に進めるだけなのです。たとえ現役で間に合わなくても、多くの先輩たちがそうであったように、浪人や再受験で花開く可能性は十分にあります。大切なのは正しい努力を続けることなのです。
医学部への道は険しくとも、その先には6年間の充実した学びと、人々の命を救うやりがいある職業人生が待っています。「文系だから…」とあきらめる前に、正しい努力を重ねてみましょう。あなたの中の文系的素養と思考力は、きっと医学の世界でも大きな財産になるはずです。困難を乗り越え医学部に合格した暁には、ぜひ文系出身者ならではの視点を持った素晴らしい医師になってください。応援しています。