回数ではなく、状態ゴールが重要
「何回やるべきか」という質問に対し、具体的な回数を答えるのは不誠実だと考えます。なぜなら、完全に人に依るからです。しかも、人によって固定の回数があるわけではなく、状態ゴールを達成したら終了、達成するまで繰り返すというのが正しい回答になります。
この状態ゴールが明確になっていない人は、ただむやみに回数を重ねるだけで、何にも得られません。無意識な学習は非効率な学習の最たるものです。
目指すべき状態ゴールは何か? つまり、何を明確にしたいかという目的と仮説を持って演習することになります。
松濤舎が推奨している観点は3つあります。
医学部受験生は共通テストを何回すべきか①|偏差値から予想される上限得点が出るまで
前の記事に書いたように、第三回全統記述模試の偏差値から予想される上限得点(=取りうる共通テストの得点の最大値)が出るまで繰り返す、という観点があります。
得点が取れない理由は次のようなものが考えられます。
1)解き方が悪い
予想される上限得点が出ない最大の理由は、解き方を間違えているからです。
特に、共通テストではわからない問題ですぐ飛ばす、というのが大原則です。1つの問題でスタックしてしまうと、そのままズルズルと時間を浪費してしまいますし、それがさらに焦りを生み、解けるものも解けません。その後の問題にも大きく影響してきます。そのため、解けない問題があったらとにかく飛ばし、解ける問題をまずはひと通り解いて安心するというのを原則としましょう。
あとは時間配分も守りましょう。例えば60分で大問4つだったら、必ず1つの大問に15分以上使わないようにするということです。そもそも大問ごとの持ち時間を消費してしまう人は、先述の「わからない問題があったらすぐ飛ばす」という原則が守れていない可能性大ではありますが。
時間配分と言えば、「最後に時間を余らせたあと、確認や検算する余裕を作る」と考えている人がいますが、完全に間違っています。
国公立医学部で共通テスト高得点を取る人は、基本的に頭から順にバーっと解いていき、都度計算ミスがないかの確認やマークミスがないかの確認を迅速に行っています。わからない問題や時間がかかりそうな問題があったらいったん飛ばし、ひと通り解き終わった後に戻ります。それでも時間が余ることが多く、そういうときは自信がない問題や、あまり疑いもせずに選んだ選択肢以外の選択肢も念のため検討する、などしています。
そもそも残り時間で確認してミスに気づいても、時間がなくてやり直せないか、焦って解けません。時間がない中で確認すると、却って間違った選択肢を選びがちです。気をつけましょう。
2)ミスをやり尽くしていない
ミスというのは、本番前にすべてやり尽くしてください。いわゆるケアレスミスというのは「量をこなせば勝手になくなるもの」ではなく「こういうときにこういうミスをしがち、という経験則の蓄積」によって回避されるものだからです。共通テストの演習をしてミスが発生した場合、必ずそのミスをメモし、同じようなミスはしないよう意識できるようになる必要があります。こうしてミスを出し尽くしたら演習終了です。
3)処理能力が低いままだから
共通テストでは、比較的簡単な問題をパッパと処理していくスキルが必要です。能力というより経験が必要なのです。
例えば、英語のリーディングは英語長文を素早く読み選択肢を的確に選んでいく必要があり、数学は式の途中が虫食いになっていて、誘導に乗る必要があります。現代文は素早く概要を掴みつつ、各小問は本文に戻って細かいところまで確認する必要があります。
こうした共通テスト独特の処理能力は、演習を重ねるうちに上がっていきます。
解き方が改善され、ケアレスミスもしなくなれば、必然的に処理能力は上限に達していることが多いです。
こうして、取りうる共通テストの上限得点に達したら、演習を終了します。
*注意点
取りうる点数はあくまでも参考値なので、いくら演習を繰り返しても取れない点数の可能性があります。上記の観点で振り返り改善点が見つからなくなったら、それ以上取れないと諦めましょう。
医学部受験生は共通テストを何回すべきか②|目標下限得点を確定するまで
偏差値から予想される共通テストの上限得点は一つの目安でしかありません。それ以上解き方を改善しても、ケアレスミスを解消しても、形式に慣れても、点数が伸び悩むことがあります。
そうした場合はそれ以上演習を重ねず、共通テストの目標下限得点を確定させにいきましょう。
目標下限得点とは、共通テストで最低限取りたい得点のことで、各科目に設定します。例えば、前の記事で書いたように、共通テストは80%以上取る必要があるので、次のような目標下限得点を決めます。
教科 | 目標 下限得点 | 配点 | 得点率 | 備考 |
---|---|---|---|---|
英語 | 165 | 200 | 82.5% | R:85、L:80 |
数学 | 165 | 200 | 82.5% | 1A:80、2B:85 |
理科1 | 85 | 100 | 85% | − |
理科2 | 85 | 100 | 85% | − |
国語 | 150 | 200 | 75% | 評:小:古:漢 =40:40:30:40 |
社会 | 70 | 100 | 70% | − |
合計 | 720 | 900 | 80% |
共通テストの演習では、この下限得点を明確に決めることが一つの状態ゴールです。各科目、現実的に最低でもどれくらいの点数が取れそうかを、演習を通して見極め、確定していきます。
目標”下限”得点を確定させるワケー1
目標得点というのはいくらでも高く設定できますが、だいたいは絵に書いた餅になります。ただの願望では点数は出ないのです。
また、目標点数を高く設定することによって、本当は飛ばすべき問題が飛ばせなかったり、うまく点数が取れなかった科目の分を取り返そうとしてみたりと、良いことがありません。絶対にこのようなことはしないようにしましょう。
目標”下限”得点を確定させるワケー2
共通テストではとにかく「大きく失敗しないこと」が重要です。目標下限得点が固く取れるようになったら、残りの試験時間で取得した点数はエキストラとして加算されていきます。
目標下限得点を80%と設定していたが、本番では83%取得できた、ということが実際に起こるのです。
欲を出さず「確実にこの点数は取ってくる」という点数を決め、それが志望校のボーダー得点率以上になっているようにしましょう。
医学部受験生は共通テストを何回すべきか③|攻略法が明確になるまで
目標下限得点を決めるのと同時に、その点数を取るための攻略法についても確定させていきます。
時間配分、どの順番で解くか、どの問題は捨てるか、どういうことに注意すべきか、という定性的なものになります。その攻略法で解けば、その目標下限得点が取れる、という状態にしましょう。
下記、簡単な例です。
教科 | 目標 下限得点 | 配点 | 得点率 | 攻略法 |
---|---|---|---|---|
R | 85 | 100 | 85% | ・上から順に素早く解いていくのみ ・資料問題読み取りは最後に回す ・3問くらいは飛ばしてもよい |
L | 80 | 100 | 80% | ・選択肢に事前にさっと目を通す ・要約しながら聴く ・20点落としていい ・わからなかったら諦め引きづらない |
数1A | 80 | 100 | 80% | ・上から順に素早く解いていく ・確率は最後に時間をかけて確認する |
数2B | 85 | 100 | 85% | ・上から順に素早く解いていく ・わからない問題は飛ばす |
化学 | 85 | 100 | 85% | ・上から順に素早く解いていく ・知識問題の精査はひと通り解いてから |
生物 | 85 | 100 | 85% | ・上から順に素早く解いていく ・思考問題は最後に残しておく |
国語 | 150 | 200 | 75% | ・評論⇒漢文⇒小説⇒古文の順で解く ・評論,漢文18分、小説,古文22分ずつ ・古文は2問捨てていい |
社会 | 70 | 100 | 70% | ・まずは荒くていいからひと通り解く ・不安な問題にはマークしておく ・不安な問題は残り時間で吟味する |
合計 | 720 | 900 | 80% |
上記の表が完成したら、共通テストの演習を止めて大丈夫です。
総合的に判断しよう
このように、共通テストの演習を何回すべきかという単純化されたものはないということがわかったかと思います。
少し複雑なように見えるかもしれませんが、複合的な視点から共通テストを何回やったらいいかを考えることで、納得感のある回数だけ演習できるようになるでしょう。
まとめると、共通テストでは大きく崩さないことが重要で、そのために目標下限得点と攻略法を確定させること。また、記述模試の偏差値から予想しうる取得可能な得点を目安に演習を継続してみること、改善点には解き方やケアレスミスの洗い出し、処理スキルの向上といった観点があること、がわかってもらえれば結構です。
自分一人で判断できない場合は、第三者の視点からアドバイスしてくれる専門家に依頼しましょう。