目次
- 『東大の英語リスニング20カ年』の対象
- 『東大の英語リスニング20カ年』を使うタイミング
- 『東大の英語リスニング20カ年』に入る前に改めるべき「間違った英語観」
- 『東大の英語リスニング20カ年』による多読多聴と単語文法との関係性
- 『東大の英語リスニング20カ年』の使い方①:意味を理解しながらリスニング
- 『東大の英語リスニング20カ年』の使い方②:意味を理解しながらパラレルリーディング
- 『東大の英語リスニング20カ年』の状態ゴール
- 『東大の英語リスニング20カ年』の使い方
- 『東大の英語リスニング20カ年』の進め方
- 『東大の英語リスニング20カ年』の習得レベル
- 『東大の英語リスニング20カ年』を東大受験生以外にも使用する理由
- 『東大の英語リスニング20カ年』のスクリプトのレベルと文字数
『東大の英語リスニング20カ年』の対象
『東大の英語リスニング20カ年』は本来、東大受験生がリスニング対策として使用する問題集です。
しかし、松濤舎では本書『東大の英語リスニング20カ年』を多読多聴教材として東大受験生以外も使用しています。
本書は多読多聴教材に最適な特徴を持っているのです(理由は後述)
『東大の英語リスニング20カ年』を使うタイミング
『システム英単語』を8割以上覚え、『英文法・語法 Vintage』などの文法問題集の「文法・語法」セクションが8割以上解けたら入ります。
『東大の英語リスニング20カ年』に入る前に改めるべき「間違った英語観」
「英単語を覚え、文法問題も解き、精読もしたのに、英語の成績が伸びない」という人はたくさんいます。その原因は明らかで、次の2つが影響しています。
- 日本語を介して英語を理解しようとしているから。英語を英語のまま理解する回路を鍛えなければならない。
- 単語や文法知識は多数使うことで、スムーズに想起できるようにならければならないが、それができていない。
要するに、英語を英語のまま理解する機会が圧倒的に不足しているのです。
日本の英語教育のクリティカルな問題点はリーディングやリスニングのインプット不足にあります。その上、英単語を覚え、文法というルールを覚え、英文構造を解析していければ、英文も読めるようになるし、英作文も書けるようになるという誤った英語観を植え付けています。英語はプログラミング言語ではないので、このような勉強をいくら続けていても英語がスムーズに読める・聴けるようにはなりません。
ちなみに、英作文やスピーキングなどのアウトプットは少量で良いこともわかっていますので多量のインプット(多読多聴)と、少量のアウトプット(ライティング・リーディング)が英語学習におけるポイントなのです。
当然、英単語と文法知識も必要です。
英単語に関して言うと、多読多聴を通して語彙量を増やすことは非効率であることがわかっているので、別途単語帳を使って暗記しなければなりません。
また英文法に関しても、多読多聴を通して理解していくのは非効率ですし、細かな文法問題は大学受験において依然として出題が多いため、これも文法問題集で対策しなければならないのです。
『東大の英語リスニング20カ年』による多読多聴と単語文法との関係性
英単語や文法の知識がなければ英語長文は読めないため、英単語は単語帳を、英文法は文法問題集を使って意識的に暗記しなければなりません。
このように、意識的な暗記を通して得た知識を顕在知識(けんざいちしき)と呼びます。
ちなみに、意識的な暗記の対義語を不随意暗記と言います。
不随意暗記とは、普段生活する中で意図せず覚えることをいいます。母語(日本人にとっての日本語)は、このような不随意暗記を通して言語習得しますが、それには膨大な時間が必要になります。しかし、高校生・受験生は、英語だけに膨大な時間をかけることはできませんし、英語漬けの環境を用意することも難しいです。よって、意識的な暗記を通し、単語や文法を暗記していく必要があるのです。
こうして得られた顕在知識ですが、皆さんも経験あると思いますが、最初からスムーズに使うこと(思い出すこと)はできません。覚えたての英単語が長文中に出てきても「うーん、なんて意味だったかな」と思い出すのに時間がかかるはずです。
顕在知識は、たくさん触れること(多読多聴すること)によって素早くその発音や意味が思い出せるようにしなければいけません。単語を見聞きした瞬間に、その意味が無意識に出てくる状態です。
このような状態になった知識のことを潜在知識(せんざいちしき)と呼びます。多読多聴を行うことによって顕在知識が潜在知識に変わり、スムーズに英文が読めるようになるのです。
逆に言うと、顕在知識がなければ潜在知識も得られないので、単語暗記や文法習得は別途、並行して行う必要があるのです。
『東大の英語リスニング20カ年』の使い方①:意味を理解しながらリスニング
さて、多読多聴の重要性は理解いただいた上で、具体的にどのように使っていったらよいのでしょうか? まずは多聴(リスニング)から始めます。
下記に、リスニングトレーニングの特徴を2点挙げます。
1. ハードルが低いから継続する
長文読解が継続しないのは、英語だけの文章を読むのが苦痛だからです。日本人にとって英語のみからなる文章は見るだけでストレスフルです。
しかし、リスニングで音を聴いている分にはそういったストレスは感じません。あまり勉強をしている感じがなく、ラジオや音楽を聴いている感覚に近くなるはずです。7割以上の文章が聴き取れる英文を選ぶことが前提ですが。
そこで、まずはリスニングから始めます。最低でも3回は聴くようにしましょう。1回目は、細かい部分より全体像を把握することに重きを置き、2回目以降は聴き取れなかった部分を聴き取ろうとしてください。同じ場所をリピートしても構いません。
「これ以上繰り返し聴いても聴き取れなそう」と思ったら一旦止め、英文と全訳を確認します。この際、英文構造も把握するようにしてください。また、聴き取れなかった単語や、ほぼ発音されなかった単語(a,theなど)を確認します。
ここまで終われば、再びリスニングに戻り、今度は何を言っているか100%理解できるまで繰り返しましょう。音だけで完璧に理解できるようになったらリスニングは終了です。
面白いことに、リスニングをすることで英文がスクリプトに見えてきます。文章を読んでいる感覚ではなく頭の中でセリフが流れるようになって、長文に対する抵抗感が一気に消えるようになるのです。
このように、リスニングは長文読解と比べてハードルが低いため毎日続けやすいのです。また、長文に対する抵抗感も下がるという副次的効果も得られます。
2. リスニングは「負荷の高いリーディング」である
「リーディング(長文読解)対策したいのに、リスニングなんかして意味あるの?」と思ったかもしれませんが、そもそもリスニングはリーディング対策を内包しています。
リスニングでは「音⇒文字⇒理解」という過程を経ますが、リーディングは後半の「文字⇒理解」に該当するからです。
しかも、リスニングの方がリーディングよりも負荷の高い学習です。
というのも、まずリスニングでは音がどんどん流れていくので返り読みしません。結果、英語を語順通り理解していくトレーニングになります。また、ナチュラルスピードで読み上げられるので速読のペースも掴めます。スピードが速いので英語を日本語に訳している暇もありません。
こうして、リスニングでは語順通りに速いスピードで文章が流れていくので、日本語を介して理解しようとしなくなり、英語を英語のまま理解しようとする回路が鍛えられるのです。
注意しなければならないのは、理解していない情報を頭に入れてもまったく意味がないということです。ただ英文を聴き流したり、音から英文を思い浮かべるだけをしても、まったく意味がないので注意が必要です。
『東大の英語リスニング20カ年』の使い方②:意味を理解しながらパラレルリーディング
リスニングできるようになったら、少しずつ長文を読む勉強に近づけていきます。ここで普通に黙読をしてしまっては、返り読みしてしまう可能性がありますし、スピードも遅いはずです。そこで、パラレルリーディングをしてください。
パラレルリーディングとは、「テキストを読みながら・音を聴き・声に出す」ことを指します。
<参考:パラレルリーディングと他の読み方の区別>
声に出しながら… | 音声聴く | 音声聴かない |
テキスト見る | パラレルリーディング | 音読 |
テキスト見ない | シャドウイング | 暗唱 |
「なぜ長文読解のトレーニングをしたいのに発音するの?」と思ったかもしれませんが、パラレルリーディングには語順通り読んでいく、ネイティブスピードで読み進めるようになる、日本語を介さずに意味を読み取るようになるといったリスニングで得られたのと同様の効果の他に、音韻処理を自動化する効果があります。
人は文章を読む際、”心の中で音読している”
人は文章を読むとき、それが日本語であろうが英語であろうが、心の中で音読します。今まさに読んでいるこの文章も、心の中で音読しているはずです。
文字を素早く音に変えることができなければ黙読も遅いわけなので、素早く発音する練習を繰り返してください。「黙読しているときはスラスラ読めているから大丈夫」と思うからもしれませんが、実際やってみるとスムーズに発音できないことが露わになります。
文字を見てそれを音に変えることを音韻処理といいます。
素早く発音するトレーニングを繰り返すことで音韻処理が自動化され、スムーズに長文を読んでいくことができるのです。
意味を理解しながらパラレルリーディングする
パラレルリーディングでは、必ず意味を理解しながら読むようにしてください。文章が自分の意見かのように感情を乗せて読むと効果的です。
最後に黙読をし、スムーズに意味が理解できることを確認したら終了です。
『東大の英語リスニング20カ年』の状態ゴール
日本語を介さず英語を英語のまま理解している
最終的な状態ゴールは、英語を英語のまま理解している状態です。よく「英語を英語のまま読めている」「直読直解できている」と言われる状態のことです。
少しイメージしにくいかもしれません。もう少し噛み砕くと「英語の語順通りに読み、返り読みしない」「日本語を介さず理解している」という状態のことを指します。
多くの人が、長文読解は「英語⇒日本語に訳す⇒理解する」というプロセスを経ると思っていますが、大きな勘違いです。日本語に訳すという過程をすっ飛ばし、「英語⇒理解する」という状態にならなければなりません。
例えば「Green Apple」という字面を見たら、多くの人がすぐに青りんごのイメージ(画像)を思い浮かべますよね? 一度「青りんご」という日本語に変換してからイメージが浮かんだわけではないですよね?
このように、日本語を介さずに英語を見てそのままイメージや概念、情景が思い浮かぶようになることが「英語を英語のまま読めている」「直読直解できている」と言われる状態なのです。
本書を正しく使い、「英語を英語のまま理解する回路」を鍛えていってください。
『東大の英語リスニング20カ年』の使い方
まずはリスニングです。最低でも3回は聴くようにしてください。最初は話の全体像を掴むことを目的に、2回目以降は聴き取れなかった部分を聴き取りましょう。「これ以上聴いても理解が深まらない」と思ったらSTEP1は完了です。
次はスクリプトを確認します。聴き取れなかった単語、知らない単語、音が省略されていた単語(a,theなどの前置詞)を確認します。また、複雑な文についてはこの時点で構造を理解するようにしてください。
最後に、右ページの全訳を見て内容の確認をします。
スクリプトと全訳を見たあとは、全内容が理解できるまでリスニングを繰り返します。わからなくなったらスクリプトを見てもいいですが、最終的には音だけで完璧に理解している状態にしてください。
リスニングが完了したら、今度は発音を追加します。英文に目を通しながら、音源に合わせて発音していきましょう。これをパラレルリーディングと言います。パラレルリーディングの目的は音韻処理の自動化です。
全文の意味を理解しながらパラレルリーディングできるようになったらOKです。
[注意]必ず、意味を理解しながらパラレルリーディングするようにしてください。ただ音を真似るだけでは成績は全く伸びません。まるで自分が書いた文章かのように感情を乗せてパラレルリーディングすると、発音と理解を共存させるのが楽になります。
最後に黙読し、日本語を介さずに英語を英語のまま理解できるようになっているか確認します。できるようになっていれば、英語を英語のまま理解する回路が鍛えられた証拠です。
問題を解くことが目的ではないので、最後に問題を解きましょう。どこが問われるのかを意識して見てみてください。出題者の意図も掴めるようになると思います。
『東大の英語リスニング20カ年』の進め方
1回で1スクリプト(約500words)をやります。約60スクリプト(20年×約3スクリプト)掲載されているので、60日で終了します
1スクリプトに約1時間かけるのが目安です。一度習得レベル2にしたら同じ長文を復習する必要はありません。
時間の使い方(目安)
- リスニング:20分
- パラレルリーディング:30分
- 黙読:10分
『東大の英語リスニング20カ年』の習得レベル
レベル1:リスニングで内容が理解できている。
レベル2:パラレルリーディングしながら内容が理解できている。
レベル3:黙読し、英語を英語のまま理解できる状態になっている。
レベル4:問題が8割以上解ける
『東大の英語リスニング20カ年』を東大受験生以外にも使用する理由
①多読に適した仕様になっている
多読教材として満たすべき条件は下記ですが、『東大の英語リスニング20カ年』すべて満たしています。
- 良質な文章であること
- 一定以上の文字数があること
- 音源(CD)が付いていること
- 英文(スクリプト)のすぐ近くに和訳があること
②共通テストのリスニングは配点の半分を占める
もう一点、『東大のリスニング20カ年』を使用するのは、共通テストのリスニング配点が100点/200点と高くなったからです。
東大のリスニングテストは大変良質な上に難易度も高いため、東大のリスニングが聞けるようになったら共通テストのリスニング対策は十分となります。
なお、リスニングの配点は高くなったものの、総合点から考えると低いというのがなかなか微妙なところです。つまり、リスニングは独自の対策が必要である一方、それだけ対策するのはコスパが悪いのです。
そこで、リスニング対策を単なるリスニング対策にするのではなく長文対策にもつなげることで無駄がなくなります。
こうした観点からも、一定以上のスクリプトがあり、文章問題にしても一定以上の難易度がある東大英語のリスニング過去問は多読教材として最適なのです。
『東大の英語リスニング20カ年』のスクリプトのレベルと文字数
文字数は500~600words/題
1年でA~Cの3題に分かれており、1題500~600wordsになっています。よって、500words以上の長文を読んだことと同じになります。
500words程度の長文が大学入試でもっとも出題頻度が高いことを考えると、多くの受験生にとって最適な文字量と言えます。
レベルは旧帝大を除く国公立2次試験程度
リスニングのスクリプトなのでApple to Appleで比較はできませんが、旧帝大を除く国公立大学の2次試験レベルの難易度です。